第69話
表面は、サクッと。
そして、中はフワッと。
良い出来上がりだ。
パンケーキには、たっぷりの蜂蜜とバターを載せた。
緋音は、それにブルーベリージャムをこれでもかっというくらい付けている。
絶対、甘いやつや。
でも、食べている表情はとても幸せそうだから何も言うまい。
俺は、コーヒーを啜りながら彼女を眺めるのだった。
ほろ苦いコーヒーが、パンケーキと合わさってまろやかな口当たりになっている。
「あ、慎くん」
「ん?どした?」
「今日は、いろいろ買いたいから私の車でお出掛けしようか」
「ああ、そうしようか」
確かに、バイクでは少量の荷物しか運べない。
完全に買い物と決めているなら車の方が断然いいに決まっている。
それから、朝食を食べ終わり洗い物、洗濯などの家事を一通りこなすとお店が開店する時間になっていた。
「じゃあ、慎くん。いこ」
「ああ」
俺達は、自宅を出て緋音の車が駐車されている地下駐車場へと向かった。
途中、社員の女性たちとすれ違うがそれを見るなり緋音が抱き着いてきたので彼女たちに恐怖している余裕は無くなっていた。
逆に、彼女たちはニマニマと俺達の様子を眺め、その後社員たちが盛り上がったことをこの時の俺達は知らなかった。
その後、緋音の運転で出掛けることに。
俺は、助手席に乗る。
ちなみにだが、俺自身も自動車免許は持っている。が、ペーパー過ぎて運転怪しいので辞退した。
というか、バイクは久し振りだったのに普通に乗れたのは自動車の免許を取った以降もバイクに乗り続けていたからかもしれない。
まあ、それでも20年近く乗っていなかったのだが。
車に関しては、教習以外では運転していない気がする。
それほどまでに、ペーパーなので出来れば運転したくない。
東京にいたときは、殆どバス、地下鉄などの公共交通機関や徒歩で移動していた。
だから、あんまり必要性を感じなかった。
それに、海外に行ってからはほとんどオフィスに拘束され続けていたから移動などなかったし。
やはり、この20余年無意味だったように思う。
記憶の中も全て色褪せて、灰色な時間でしかない。
俺の中に、色が戻ったのは緋音と再会した新幹線の中からだったのかもしれない。
それほどに、空虚で儚い。
「慎くん?」
急に緋音の声が聞こえた。
俺はいつの間にか思案しながら
フロントガラスの向こう側には白い大きな建物があった。
ショッピングセンターだろうか?
「もう、気持ちよさそうに寝てたね」
「ああ、ゴメン」
「ううん、大丈夫だよ。
それよりも、着いたよ」
車はいつの間にか駐車場に停まっていた。
それにしても、此処はどこだろう。
「あ、そっか。慎くん知らなかったね。
此処は、市野のイオンだよ」
市野…うーん、あんまり覚えてないな。
確か、笠井街道沿いで…ああ、フォレステージって本屋があった気がするな。
あのあたりが市野だった気がする。
今は、そんなところにイオンがあるのか。
変われば変わるものだな。
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