第58話

「え?こんな山門あったけ?」

「えっと、何年か前にニュースで建立されたって言ってたと思うよ」


成程、じゃあ知らないわけだ。

前は、ただただ真っ直ぐな参道だった気がしたから。

山門の傍には、「神門」と書かれていた。


「山門じゃなくて、神門なのか」

「もしかして、神社は神門なのかな?」

「そうなのか…な?」


俺も、緋音も首を傾げながら神門へと歩みを進める。

神門には、左に蛇の尾を持つ亀と右に虎の彫刻が掲げられていた。

ちょうど、潜る俺達を見ているかのように見下ろしている。

そして、その左右には格子と網で閉ざされた空間に阿吽の木像が鎮座していた。


「わぁ、凄いね」

「ああ、多分玄武と白虎だろうな」

「えっと、四神…だっけ?」

「そうそう」


神門を潜った俺は、振り返ってみる。

すると、反対側には左に鳥と右に龍の彫刻が俺達を見下ろしていた。


「ああ、朱雀と青龍…やっぱり四神だな」


こちらがわには、阿吽は居らず棒のようなものに紙が付けられた…確か「大麻おおぬさ」って名前だと思う…が左右に置かれていた。


「神門に、神様がいるってこと?」

「多分、そんな感じかな」


俺達は、そのまま正面を向いて歩き始める。

短めな階段。

ゆっくり上がっていく。


「あれ?売店開いてるじゃん」

「あ、ホントだね」

「開いてるの初めて見たんだけど」


高校時代は、何度も来ていたのにいつも開いていなかった売店「秋葉茶屋」。

それが、今日に限って開いてる。

結構ついているのかもしれない。


「あ!それその笑顔。とってもいいよ」


パシャっと音がして、緋音がスマホで俺の写真を撮っていた。

もう、何も言うまい。

彼女になら、撮られても文句はない。

ちょっと恥ずかしいけど。


「ねぇ、慎くん。お昼はここで食べようよ」


花桃の里では、お昼にまだ早くて食べれなかったがちょうど此処にきていい時間になっていた。

確かに、それもありだと思う。

秋葉茶屋は、売店と食堂である。


「ついでにお土産も買っていこうよ」

「あんまり大きいものは買って帰れないよ」

「サイドバッグに入らない?」

「えっと、片方合羽入ってるんだ。

だから、もう片方しか空いてないかな」


そう、万が一のために合羽を持ってきている。

雨が降らなければ問題はないが、山の天気は変わりやすいから。


「そっか、じゃあ小さ目な物にしようかなぁ」


買って帰るのは、確定みたいだな。


「じゃあ、ご飯の前に参拝終わらせよ」

「そうだね、参拝してから帰りに寄ろう」


俺達は、参道をそのまま歩いていく。

目の前には、空と麓の景色が見え始めていた。

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