第49話

食後、チャイを淹れ俺達はリビングで食休みをしていた。

チャイの材料であるシナモン、カルダモン、クローブは緋音が元々買っていたスパイス棚にあったものだ。

多分、これがあればカレーも自作できるかもしれない。

なぜ、スパイスだけこんなにあるのかちょっと聞いてみたら冬場にホットワインを飲んでいた時の残りらしい。

ふむ、ホットワインもいいな。

あ…ビール買ってあったの忘れてた。

餃子でビールを飲もうと思ってたのに。


「それでね、暫くは慎くんには私の仕事の補助をしてもらおうと思うの」

「うん、分かったよ」

「でもね、出来ることは増やしていってほしいな」

「頑張るよ」


それにしても、どんな仕事をしたらいいのだろう。

緋音の仕事って実際どんなことをしたらいいんだろうか。


「あ、取り敢えずスマホ返しておくね」


俺は、彼女から自身のスマホを受け取る。

そして、そのままテーブルの上に置いた。

あっても、特に使う予定はない。

SNSもしてなければ、掛かってくる電話も…あ!


「例の電話は?」

「うーん、ちょっと大事になりそうだからうちの顧問弁護士に丸投げしといたよ」

「oh」


確かに、離婚して6年近く経っていてあんな嫌がらせのようなことをしたんだからなぁ。

俺は、宙空の見上げる。

といっても、なにかにピントを合わせるというわけではなく何と無くぼんやりと眺めるといった感じだ。


「えっとね、私が深月ちゃん経由で社用スマホにSIMを入れてもらったんだけど、それからずっと鳴り続けていて、業務に支障をきたすからって」

「ああ、罪の量産か…短絡的過ぎるな、あいつ」


それに、あの番号を既に変えていた場合。

俺以外の人間に迷惑が掛かっていることを考えられないのだから、既に終わっている。

電話番号は、数年すると別の人間が取得していることがある。

それほどに、電話番号の残数が少なくなってきている。

最近では、「090」「080」では足りなく「070」が追加されたのも記憶に新しい。

昨今では、「060」も追加されることも聞いた。


「だから、安心して。私が、慎くんを守るから」

「ああ、ありがとう。緋音」


守られるのも悪くない。

でも、出来れば守れるようになりたいな。


「明日からのお休みだけど、どうしようか?慎くん、なにしたい?」

「買い物もいいと思ったんだけど…明日はツーリングでもどうかな」

「あ!行きたい…でも、久し振りの運転だけど大丈夫?」

「ああ、それは大丈夫かな。割と身体が覚えていた」


俺は、チャイの入ったカップをグイっと傾け中身を空にした。

喉奥をスパイシーな風味が支配する。

胃袋も温かくなった。



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