第32話

朝食も終え、片付けを済ませると自宅を出る。

連絡通路を渡って、会社棟へと向かう。


「一応、家から私の社長室は連絡通路で繋がっているの。

同じ階にあるから。

あとは、2階と4階にも連絡通路はあるわ」


緋音の自宅は、5階にある。

つまり、社長室も5階にあるという事だろう。


「後で詳しく社内の案内はするけど、連絡通路は特定の人しか使うことができないの。

入場ゲートの開閉としてマーケティング・営業部、生産・企画部と分かれているわ」


自宅を出るときに緋音に一枚のカードを渡された。

入館証らしい。

顔写真はないが確かにそこに俺の名前が刻まれている。

そして、役職は『秘書』と。


「5階の連絡通路は、私と慎くん専用ね」

「えっと、他に秘書さんは?」

「え?いないけど?」


俺は、首を傾げる。

秘書がいない社長っているものなのか?

割と大きい会社に見えるんだけど。


「あ、えっとね。秘書の子が産休に入って今はいないってこと」

「ああ、なるほど。俺は、臨時の秘書ってことだら?」


緋音が、今度は首を傾げる。

それでも、俺達の歩みは止まらず会社棟の一室へとやってきた。


「うーんと、取り敢えず雇用関係の話もしたいし入って入って」


どうやら、此処が社長室のようだ。

今まで歩いてきた廊下は真っ白な壁で、片側は窓ガラスが嵌められ陽光が差し込んでいた。

まあ、いたって普通なオフィス。

緋音が、扉を開け中へと入っていく。

俺も、それに着いて入室した。

10畳はあるだろう大きな部屋。

部屋手前には、応接セットが置かれているし正面には大きな窓とデスクが2つ並んでいる。


「慎くん、ようこそ。CARE《ケア》& CURE《キュア》へ」

「CARE&CURE?」


そういえば、会社名も知らなかったな。

名前的に医療関係?薬剤かな?

俺、そう言った資格無いんだけど。


「じゃあ、うちの業態とか説明するわね。そちらに座って」


俺は、応接セットへと招かれる。

ソファに腰を下ろす。

しっとりとした沈み込みと柔らかな座り心地。

表面も本革で滑らかだ。

かなり質の良いソファだと思われる。

このソファをベッドにしろと言われても爆睡が出来そうなレベルだ。


「慎くん、目が溶けてるけど寝ちゃだけだからね」


緋音に釘を刺された。

彼女は、デスクから冊子とノートパソコンを持ってきて俺の前に座る。


「はい、これ。

一応、うちの社外パンフレット」


俺は、パンフレットを受け取るとペラペラと捲っていく。

その様子を、優しい笑みを浮かべて緋音が見ていた。

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