4それは決して明かされてはならない事実

「分かった。まず最初に言っておくが君にも深く関わってくることだ。私が結婚するにあたって君を選んだのはリーシャ・フランクスは「ロード」の一人だからだ」

「…はい?」


 ……やってくれましたね。この笑顔、憎たらしい!


 ロードの一人、それはわたしが皇族に継ぐ権力を持っている五つの名門の直系だということを示している。一度疑問に思ったはずなのに、なぜ公爵がわたしと結婚したがるのかと聞くのを忘れてしまっていたことにわたしが気づいたときにはもう手遅れだった。


 わたしははすでに公爵様と契約を結んだあと!


 わたしがロードだと知っているのは、彼が新たにフェルリア公爵家の当主となったからでしょうね。


 だけど、そうすんなり認めるわけにもいかない。勘で言っているのであれば誤魔化しも効く。勘などではないと本当はわたしも分かっていたんだけど認めたくないし、なによりこの意地の悪い笑顔で言われるのは癪だった。


 それに、逆に言えば彼が勘で言っているわけではないのなら、フェルリア公爵家もロードということになる。


「…わたしがそんな立場のはずがないですよ」


 すすーっと目を横に逸らした。その時点で認めているようなものだと公爵様は笑っていたようだけど、別の方向に目を向けていたわたしは気が付かなかった。


 たまたまリジーと目が合うと、「諦めた方が賢明だと思いますよ、お嬢様」とでも言いたげな目をされた。不本意に思いながら視線を公爵様の方に戻すとニヤリと笑った。


 その顔、絶対他の女性たちの前ではしない方がいいと思いますよ!わたしなら絶対引く。実際に引いてますし、他のご令嬢方も八割……いや、九割は引くと思います!


「あくまでも白を切るか?フランクスのロードは素直ではないようだな」

「何のことを言っているのでしょう?」


 どうあっても誤魔化せないのかなぁ。それはそれで悔しいんですけど。


「そもそも、わたしが本当にロードならわざわざ好みでもない偉そうな公爵……いえ、社交界で大人気の公爵様との釣り合わない、それも契約結婚なんてしませんよ。ロードなら各家の役割に応じた多額の給金を得ているらしいですから」


 それこそがわたしの私財だったんだけど。つい本音が漏れてしまったんだけど、きっと気付かれていない…と、思う。そう信じよう。


 口元がヒクヒクしてるのはきっと気のせいだよね!いきなり変なことを言われたから目がおかしくなったんですよ、きっと!……自分で言っててなんかダメージ食らったね。別に視力は悪くないんだけどな…わたしはなにをしてるんだろうね。ちょっと紅茶でも飲んで落ち着きましょうか。


「その多額の給金さえ使い切るほど、領地が荒れているなら話は別だろう?フランクス家については領地の状況は分かったが、我が公爵家でも内情までは探れなかった。だがまあ、探りたいことがあるわけではなかったのだが」

「左様ですか……」


 諦めが悪いって言われるとそれまでだが、やっぱり何とか隠し通せないかなと考える。一瞬の間に何十通りも会話のシミュレーションをしてみたけど全部ダメそうだ。


 うー。勝負に負けたみたいで悔しいんですけど。


 いつか絶対報復すると心に決めて、紅茶のカップをソーサーに戻した。せめてもの抵抗(?)でキッと睨むと反抗期の子供をあしらうようにサラッと受け流された。


「最初から誤魔化せるとも思ってませんでしたが、公爵様の言う通りですよ。それに、貴方もロードということですね」

「そうだな。信じるか?」

「証明してください、一応」

「分かった」


 これで証明できなかったならどこ情報!?と国中が大騒ぎになりますよ。いや、ほんとに。


 当人たち以外がロードの名を知っていてはいけないのだから。こればっかりは誇張でもなんでもなくただの事実だ。それだけロードについては秘匿されていることが多い。明かされていることもあるが、それは当たり障りのないことだ。名前や身分を知られているはずがなかった。


 まあ心配しなくても長年ロードの一員としてやってきたからか人を見る目はある。この公爵様は本当にロードだろう。念のために証明してもらうだけのことだ。

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