第60話

「スプレ・ドリップ。」


「なんだって?」




背後からのミルの声に、首を横に振った。



ここに住むことになれば、確実に顔を合わせるであろう彼の名前は、スプレ・ドリップ。




ビター・ドリップの弟であり、今は15歳。



この時は訓練中の怪我で療養中だったな、確か。



そんな彼はこの先数年で目覚ましい成長を遂げて、齢20歳にしてコーヒー王国の騎士団長にまで登り詰める。



そして彼は、英雄と呼ばれて、全国民に崇められる存在になるのだけど。




「あの人も、救ってあげたい。」




ビターの妻である小町が殺される前年に、戦場で受けた傷が元で、無念にもこの世を去ってしまう。




もし私がこの世界でミルの力を使い奇跡を起こせるのなら、彼を救いたいと思う。





あんなに優秀な彼が、この世界の医療の限界のせいで死んでしまうのはなんだかもったいないと思う。




もし彼を生かしたとして、この国のためにはなれど不利になることなんてなにもないのだから。




それに、二度目に彼に会った時のことを思い出した。場所はまたこの療養所で。二度目に会った彼はもう、なにもしゃべることもできなかった。




英雄とまで言われた人が、医者たちだけに看取られ亡くなったと聞いた時、ビターと一緒に会いに行った私は彼を見て涙を流した。

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