鬼の世界

雷知の国

第48話

side 羽水




「食べますか?」



「ん。和子。」



「え?」



「ん。」



「…自分で食べてください。」



「なぜだ。」




王の言葉に、和子様がこちらを気になさる。それに気付いた王の殺気に、全身の毛が逆立った。



すると、和子様が責めるように王を見る。その視線を受け止め、王はさりげなく僕に興味を失くした。



ふふ、面白いものだ。あの王が和子様の尻に敷かれているとは。



これまでの王だったならすぐさま食い殺していただろうに。やはり和子様は特別なのだ。



それにしても。




「そろそろ、呼ばれますか?」



「ん?」




和子様によって口に大きな苺を与えられた王の機嫌を損ねることになると分かってはいても、ここは進言すべきだと確信していた。



「和子様の傷が大事になる前に、雷知を呼ばれますか?」




やはり王は、むつと顔色を変える。しかし和子様の首の傷は最近治りが遅く、人によく効くと言われている軟膏を塗ってもあまり効いていないようだ。



それも当たり前か。かなり加減しているとはいえ、王は毎日食事するのだ。



和子様が同意しているとはいえ、痛みを伴う食事は主に和子様に大きな負担をかけてしまう。




その負担を最小限にしていたのが雷知の癒しの力。その雷知がいないのなら、今すぐ呼んで和子様の治療をさせるべきだ。

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