第33話
「和子。皇帝がお前に会いたいそうだが、会うか?」
「皇帝、ですか?」
「ああ。」
93年眠っていたとしても、火炉の周りにほぼ変化はなかった。だからか、私がいつも通りの生活に戻るのも早く、今もいつも通り、火炉と食事のあとのお風呂に入っていたところ。
「なんで私に?」
「まぁ、会いたいというのもあり得る話だな。」
「え、なぜですか?」
「ん?」
なんだか、話がかみ合っていない、ような。
「お前、皇帝が誰か分かってるのか?」
「あの、ご年配の方ですよね。」
「……ああ、そういうことか。」
ぴちゃりとお湯を鳴らした火炉は、ようやくすっきりしたとばかりに小さく笑った。
「現皇帝は、お前の兄、周防だぞ。」
「え?」
その名前を聞くだけでなんだか嫌な気分になるのはなぜなんだろう?
あの日の、時の悲しそうな顔を思い出すからかな。
「兄が、私に?」
「ああ。」
周防が皇帝になっているということに驚くよりも、彼自身の存在そのものが怖かった。
「嫌なら会わなくてもいいんだぞ。俺も会いたくはない。」
そう言った火炉が指を鳴らせば、月夜が果物を持ってお風呂場へやってくる。
「和子様、冷たく冷やしてございますよ!」
笑顔の月夜が、私に果物を差し出しても、それを素直に受けとれるほど余裕はない。
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