第6話

「お疲れ様でしたー。」




今日は、早めに仕事が終了。フランス帰りの江戸っ子、料理長の小田おださんにブッフェの残りを詰めてもらったタッパを持って従業員出入り口を出る。




その途端、ふわりと香ったウッド系の心地よい香り、そして。




「うぐっ!」




強すぎるほどの、抱擁。




「華ー。お帰りー。」


「く、苦しい!」


「あ、ごめんごめん。」




毎度のこととはいえ、苦しいものは苦しい。解放された私は一歩後ずさって私をつぶさんばかりに強く抱きしめた張本人に苦笑いを向けた。




「毎度言いますけど、苦しいですよ、はるさん。」



「えー、華と会えたこの喜びを表現してるだけなのに?」



その笑顔はもはや国宝級。何度見ても慣れない爽やかスマイルに、息を呑んだ。




「はなー?」


「ん、はい。」


「よだれ、出てるよ。」


「へ?」




ボーッと見つめるだけの私の口端を指先で拭った春さんは、笑みを深めて耳元へ唇を寄せる。



「誰のこと、考えてた?」



「春さんですけど。」



「え。」





春さんの香り、いつ匂ってもいい匂い。小田さんの料理以上と思うんだから私もなかなか末期なんだと思う。




「なんて?」


「だから、春さんのこと考えてましたけど。」




体を離して口をポカンと開けている春さん。珍しく間抜け顔、も可愛い。

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