第30話 拉致
休みも終わり寮に帰ってくると不思議な気持ちになるな。
ショッピングモールに出かける。
買取屋は開いていないし、魔道具屋に入ってみる。
「あら、いつかの!学校は慣れた?」
「はい、慣れましたね。紅羽さんも卒業生なんですよね?」
「そうね?なぜ?」
「いや、…親が異世界のことを忘れて行くのがなんだか不思議な感覚だったんで」
紅羽さんは肘をつきこちらをみると、
「私は反対なんだよ?流石に親まで忘れちゃいけないような気がしてね」
「ですよね。俺もそう思います」
「…そう、やっぱりみんなそう思うわよね。でも記憶から消してる奴も苦しんでるから…それだけは覚えておいてね」
やはり記憶を弄るのは精神的に良くないんだろうな。
「はい、わかりました」
「ありがとう。で?何か買い物?」
「えぇ、何か生産に役立つものがあればと思って」
俺は話を終わらせて魔道具を見て回る。
だが、これと言って欲しいものはなかったので挨拶をして帰る。
「あはは、ひまだったからちょうどよかったわよ?またいらっしゃい」
「はい!失礼します」
外に出て歩いていると万場さんに出会った。
「君は五美君だったかな?」
「はい、万場さんですよね?」
「あはは、覚えてくれたんだね。そうだ、お茶でもしないか?」
「?いいですが」
と2人でファミレスに入り、
「奢るから頼んでいいよ」
「ドリンクバーだけでいいですよ」
「そうかい?じゃあドリンクバー2人分」
2人ともホットコーヒーを入れてくると、
「君は異世界でどうしてたんだい?」
「異世界ですか?まぁ、1人でダンジョン攻略したりですかね?」
「なぜ1人で?」
「あはは、あの時は弱かったんでグループの爪弾きでしたからね」
「そうかい、そいつらに復讐とかは?」
「?、ないですね?何が聞きたいんですか?」
万場さんは普通の顔だな。
「いや、似た境遇だったからね。単なる好奇心で聞いてしまったよ」
「…そうなんですか。万場さんは仕返ししたんですか?」
「俺かい?したよ?しなければ俺の精神が持たなかったからね」
そう言って席を立つ。
「君も同じだったらと思って聞いてみただけだよ。あんまりいい話ではなかったね、悪かった」
「いえ、そう言うこともありますしね」
「そうか、君は優しいんだな。話をありがとう」
「いいえ、こちらこそ」
万場さんは復讐したのか、俺も少しは考えたが、あいつに関わる事自体が俺にプラスにならないからな。
ファミレスを出るとゆっくり歩いて帰る。
「はぁ、なんでこんな時に会うかな…」
目の前には元グループだった中村、小早川、鈴木の3人が固まっていた。
「な、なんだよ?」
「あ?別に?さっさといけよ」
「あ?テメェいい気になるのもいい加減にしろよ!」
「お前らこそ俺に構っていいのか?また漏らすぞ?」
「く、くそ!バカにしやがって!」
「中村、いくぞ!構ってられるか!」
「言っとくぞ!吠え面かかしてやるからな!」
「行くぞ!」
それだけ言って逃げていった。
「はぁ、気分が悪いな」
そう呟くと寮まで歩く。
「なんであいつらは変わろうとしないんだ?」
「さあね?変わる必要があるのは君かもね」
「?!!」
“ドサッ”
俺の意識はそこで途絶えた。
「…ここは?」
「やぁ、
「…まずはこれを外してもらえませんか?」
「あはは、失礼だがスキルは封じさせてもらったんだ。これで君は普通の人間だ」
「そうなんですね」
手錠がかけられて椅子の後ろで留められている。
「あぁ、サンちゃんさんを殺そうとした組織の人?」
「サンちゃんさん?…あぁ、太陽のことか、まぁ、そうなるかな?」
「なぜ殺そうと?」
「それは知らないな。よっぽど狙われる事情があったんだろ?」
相手は顔を隠し声も変えている。
外の音は聞こえないが振動がするから車の中のようだな。
「さて君はだいぶ人気者のようだが、異世界で活躍したのかい?」
「…いえ、俺は活躍してないですね」
「そうか、君は異世界で燻っていたのか?」
「んー、別に、好きにしてましたよ?」
「私は聞いたのだ。君は置き去りにされ、死んだと思われていた」
「…その通りですね」
「ではなぜ人気が?あぁ、同情か」
「…」
「五美君、同情されて悔しくないのか?」
「…ふぅ、別に」
「そうか、ではSWTOが何をしているのか知ってるか?」
「…何をしてるんですか?」
「人殺し…記憶をなくし人を変える。僕らはそう言うSWTOに反旗を翻し天誅を与える組織だ」
「…」
「君は人の記憶から消えて行くのがどれほど怖いか知っているかい?じわじわと殺されているんだよ?」
「…」
「君らはそこに入ろうとしているがいいのか?本当にそれで?」
「何が言いたいんです?」
「五美君、君も同じだ。僕らの仲間に入るんだ」
「…こんなことされてですか?」
「悪いね。それは謝るよ。でも考えてくれないか?SWTOにいれば必ず後悔する」
「…どう言うことです?」
「僕らは一度…記憶を消された」
「…」
「異世界での記憶は耐え難いものだったよ。人を殺し、血で血を洗うような悲惨なものだ。それを忘れ、のうのうと生きてきた」
「…」
「20年…忘れていた扉を開いてくれたのが『Drop』だ」
「…『Drop』」
「そう、雫は波紋のように広がり大きな波となる。僕らはこの世界の波となり全てを一新する!」
「…」
「君の意見を聞きたいね」
「…俺は記憶を弄ることはやめて欲しい…だが、人は忘れる…だから生きていけると思う」
「そうか、残念だが君は僕らと分かり合えないんだね」
「…そうですね。こんな身勝手が許されるとも思ってないですしね」
俺は手錠を外すと手首をさする。
「な!スキルは封じだはず!」
「生憎、俺の2年間は貴方の想像を超える!」
“ギギィンッ!!”
「クッ!どこにそんな力が」
「貴方は間違っていると否定はしない!が、やり方は間違っている」
“ドンッ”
「グハッ!!」
男は倒れたのでその顔を見ようと掴み上げる。
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