第25話 その頃


 時は冬休みに遡る。

 SWSのダンジョンは冬休みでも生徒の為に解放されている。


「おい、中村!さっさといくぞ!」

「おう!待ってくれよ!」

 小早川に急かされ走る中村。

「冬休み返上して付き合ってるんだからな!」

「悪いな!鈴木も悪いな」

「しょうがねぇだろ?五美はもう手が出せない所まで行ってるし」

「だな…あいつはバケモンだ」

 中村は顎をさすりながらそう言うと剣を抜いて、

「くるぞ!」

「「おう!」」

 ダンジョンの29階層でレベルを上げる3人だった。



 その頃、とある空港では、VIP輸送機C-37B、がアメリカに向け離陸直前だった。


『Hello!あの世に行く時間よ?』

 と女が銃を持って機内へと入ってくる。

『それはどうかしら?『アイスランス』』

 氷の槍が女を襲うがそれを避けて外に飛び出る女はクノイチの格好をしている。


「なっ!貴女も『能力者』!?」

「当たり前のことを…SWTOに決まってるでしょ?」

 と飛び出してくるのは、軍服をきて白い髪を靡かせた美しい女性だ。

「日本語?じゃあ、日本支部の?」

「私は氷室よ?知らないの?」

「…日本No.2が何しにここに?」

 クノイチは立ち上がるとダガーを構える。


「はぁ、私だってこんな任務は嫌よ?でもそれ以上に『大事な物』があるからね?」

 氷室は氷の槍を数本空中に浮かせ、女の動きを牽制している。


「は!それじゃあ任務は失敗ね!」

「…なに?」

「もうあの中の物はどう足掻いてもアメリカには着かない!!」

 遠くで爆発音が聞こえ、C-37Bから煙が上がる。

「…ふぅ、まぁいいわ!とりあえず貴女をここで逮捕するわね!」

「は!そう簡単に行けばいいけど!」

 女の身体は透けていく。

「『アイスランス』」

 見えない所に飛んでいった氷の槍は何かに刺さり、そこから赤い血が流れ出す。


「グッ!?な、なぜ?」


「さぁね!じゃあ、後はゆっくりしなさい!」

「ぎゃあぁぁあ!」

 姿を現したクノイチは手足を氷の槍で串刺しにされるとその場に倒れる。


「貴女の体温は高すぎるのよ…と、あっちは上手くいったみたいね」

 C-37Bは煙を出してたはずだが離陸し、飛んでいく。


「私を囮に使うなんて、ほんと馬鹿げた作戦ね」

 氷室はスマホを取り出してどこかに連絡すると、

『Hello!上手くいったみたいね』

 と若い女の声で周りはザワザワと喋り声が聞こえる。

「こちらも飛んでいったからこっちでも良かったんじゃない?」

 空を見上げる氷室はそう言うとクノイチを見る。

『念には念を、よ?』

 電話の奥では子供の泣く声も聞こえる。

「はぁ、まぁ私の仕事は終わったわ!後は貴女がアメリカに無事到着するのを祈ってるわ」


『はいはーい!いま映画のいいとこなの!それじゃぁね』


 と、切られてしまい舌打ちをする。


「ほんと、一番大事なものをあの子に運ばせるなんてバカみたいだわ」

 氷室はそう言うとクノイチのところへ向かい手錠をかけポーションをかける。

「立ちなさい!行くわよ!」

「クッ!」

 手錠を握りながら氷室はクノイチの耳元で話す。


 クノイチはそれを聞くと激昂し、

「クソッタレ!!!」

「あはははは、さぁ、貴女はA級犯罪者だから一生檻の中で過ごしなさい」

 氷室はそれを見て笑いながら女を連れて滑走路を歩いていく。




 アメリカ合衆国のカリフォルニア州の東部、

 エドワーズ空軍基地。


『早速届いたか!』

 空軍本部にはバスケットボールサイズの赤い魔石が届けられた。

 運んできた男はメガネをかけた若い男だ。

『ハハッ…爆破された時は肝が冷えたよ!』

 C-37Bは無事に到着していた。

『流石日本No.1の時の賢者だ!』

 時の賢者と呼ばれた男は魔石を撫でると、

『まぁね、これを運ぶだけでも厄介だからね』

『それでダンジョンコアの方は?』

『無事に商人が日本を飛び立ったよ』

 と言って上を指差す。

『それは良かった。まぁ、せっかくだからアメリカを満喫していってくれ!』

 とアタッシュケースを渡す。


『そうさせてもらうよ』

 時の賢者はそれを受け取ると後ろを向いて、

『じゃあな!大佐!』

『あぁ、楽しんでくれ!』

 そう言われその場を後にする。




 一方、日本のとある場所では、


「はぁ、A級も質が落ちたわね」

 と月明かりの中、立派な日本庭園を歩いている女性が1人。


「申し訳ありません…この次は」

 と、どこからか男の声が聞こえる。


「もういいわ、アメリカに渡ったダンジョンコアは諦めましょ」

「ですが!…すいません」

 忍びの格好をした男が女の後ろに現れる。


「今回の渡航者のファイルは?」

 女は止まって手を横に出す。

「こちらにあります!」

 と忍びはファイルを渡して後ろに下がる。

「そう、じゃあこの中にも燻ってる人間がいるはずよ」

 女は歩き出す。

「ではいつもの様に?」

「そう、仲間に引き入れなさい」

「はっ!失礼します」

 男は消えると、


「さて、夜は長いわ」

 と言って雲が流れ月の翳った夜空を見上げる。

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