第1話 勇者召喚


 私立清風高等学校、一年三組の生徒と教師が居なくなったのは一学期の最後のことだった。


「なんだ?どうなってるんだ?」

「落ち着け!先生に全員いるか報告してくれ!」

「やった、異世界転移?」

 

 僕らが気づいた時にはクラスの中に魔法陣が広がっており、光の中で何かが体の中に入ってくるのを感じた。

 そして今、僕らは広い石造りの部屋の中にクラスメイトと先生が揃っている。


「先生、クラスメイト全員いました」

「よし、お前ら落ち着け!とりあえず…」

“バン”

 大きく開く扉の奥からやってくるのは中世の騎士甲冑をきた大人たちだ。


「やっぱり異世界転移だ!やったぁ!」

「おい!静かにしろ!それでお前達は何なんだ?」

 担任の北村先生が物怖じせずに聞くと、真ん中を割って出てきたお姫様?に礼をされる。

「あなた方を呼んだのはこの世界の魔王を倒す為、勇者の力が必要だったからです!申し訳ないですが…」


 つまりは、自分の世界の人間では倒せない魔王を異世界召喚した僕らに倒せと言う都合の良い話だった。


「それでは『鑑定の儀』を始めます」

「待ってくれ!突拍子の無い話で私には信じられないのだが?」

 北村先生はメガネを外し、目頭を揉むともう一度メガネをかけ、ウィリア姫と紹介された姫様を見る。


「では、貴方に一番先にやっていただきましょう」

「あぁ、私が最初でいい」

 北村先生は前に出ると水晶を触る。

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・

 北村 秀一キタムラ シュウイチ 52歳

 魔法使い

 レベル1

 スキル

 火魔法 氷魔法 雷魔法

 ユニーク

 教鞭

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・

「貴重な氷魔法に雷魔法ですね。しかもユニークをお持ちで」

 北村先生はその画面に目を通すと、

「『トーチ』………嘘では無い様だ」

 指先に火を灯すとここが異世界だと信じた様だ。

「だが、生徒達だけで魔王とやらを討伐する?何かを殺すと言うトラウマをあたえ?…」

 姫様の剣が北村先生の首を斬り落とした。


「はぁ、貴重な人材を一人亡くしてしまいましたわ。さて、皆様は列を作ってこの水晶に順番に触って頂きます」


 何事もなかったかの様に北村先生だったものは片付けられ、恐怖の中『鑑定の儀』が始まった。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・

 北王子 光キタオウジ ヒカル 16歳

 勇者

 レベル1

 スキル

 聖剣召喚、雷魔法、聖剣技、

 ユニーク

 必要経験値二分の一

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・

「おぉ!勇者が出ましたね!」

「僕が?勇者…」


 人気者の北王子君が勇者になった。


 その後も聖女の新城シンシロさんや賢者の斉藤君などお決まりのジョブや強そうなジョブが続き、最後に僕の番になった。

 

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・

 五美 涼イツミ スズ 16歳

 収集人

 レベル1

 スキル

 収集、廃却、 

 ユニーク

 廃却ポイント 0P

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


「収集人?ですね」

「さぁ、初めて聞くジョブになりますが、まぁ、いいでしょう」

 姫はそのまま話を続ける。

「それでは皆様が生活する場所と武器や防具、あとは金貨などを用意しておりますので、移動をお願いしますね」

 と言ってウィリア姫はその場を去ると僕達は兵士に連れられて移動となった。


 クラスメイト40人、部屋は一人部屋で四畳半程の広さだ。食事は食堂、武器防具は用意されていて、金貨10枚が一人ずつ渡される。


 また一ヶ所に集められると、今度はこの国の勉強だ。

 世界の名はディス、国の名はワーゼカ王国。

 金貨1枚=銀貨100枚、銀貨1枚=銅貨100枚、1銅貨10ベルで宿に泊まるのが大体3000ベルらしい。鉄貨もあるそうだが、まぁ、使わないだろうとのことだ。


 魔法は魔力を使う、魔力枯渇になると気分が悪くなり最悪、死につながる。


 など、この国の常識を教えられた。


 部屋に戻ると今まで起きた事が思い出され、北村先生が目の前で殺されたことに吐き気などない事に疑問を持つが、何かのスキルなのだろうか?


 時間が経つにつれじんわりと恐怖に体が震えて来て、いろんな部屋から叫び声が聞こえ、僕もたまらずに叫んでいた。


 

 次の日から訓練が始まる。

 昨日あまり眠れなかったが、無理矢理連れ出された場所では近接ジョブの人は、騎士団長の言葉通りに動く。

 ついていけないものは連帯責任でみんなから非難が集中するので否応なく動かされる。


 そして帰宅部の僕は小柄で非力、必死にやっても追いつけないので魔法組と共に訓練することとなった。

 魔法・生産職組も似たようなものだったのでその日は初日からご飯が食べれないほどみんな疲れていた。


 月日は流れ、三ヶ月訓練した僕達はダンジョンというところにグループで入る。

 勇者組が4人なので、4人グループを10組作る。


「おいおい、俺らんとこはゴミクズ五美涼かよ!」

 と僕の名前をもじってゴミクズと呼ぶのは同じグループになった中村君だ。


「おい!中村!クラスメイトだろ!そんなこと言うな!」

 北王子君が庇ってくれるが、

「じゃあ、そっちの誰かと交換してくれよ!」

「分かった!」

 北王子君がそう言うが、

「ダメですよ?勇者組はパーティーでいてもらわないと?」

 と姫が言うので無理だ。

「じゃあこちらに入れるのは?」

「そしたらこっちのメンバーが少なくなっちまうだろ!」

 そういうことだ。僕は逃げられないのだ。


「北王子君、いいよ。僕はこっちで」

「あ?こっちに入れてくださいだろ?」

「中村!そんな言い方ないだろ!」

 北王子君と中村君で喧嘩しそうだが、

「北王子君、いい加減にしてくれ、僕はこっちがいいんだ!」

「五美君…」

「分かったか?っとに!しょーがねーからいれてやるよ!」

「ありがとう…中村君」

 こうしか方法はないだろ?僕は僕の居場所を作らないといけないのだから。


「あのね!あのやり方じゃ、五美イツミ君があっちで居場所なくなるわよ?」

「アカネ…そ、そうだな」

 そうだよ、僕が我慢すればいいんだからね。


「ようし!俺が鍛えてやるからな!」

「は、はい、」

「お願いしますだろ?」

「お、お願いします…」

「おーし!わかった!」


 ハハッ、余計なことしないでくれよ…


 そこからは地獄だった。


「おらっ!そっち行ったぞ!」

「は、はい!」

 ゴブリン、緑色の肌を持つ小鬼だ。

「えい!えい!」

「おいおいまだ倒せねーのかよ?次が来てるぞ?」

「は、はい!」

 僕は生傷が絶えない。


 僕にはゴブリンさえも簡単に倒せる力がないのだから。

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