第81話

リョウはあたしの隣に腰を落とせば、すぐにタバコに火を付けた。


リョウの横顔はいつも通りの無表情。雰囲気しかわからないけど、なんとなく、いつもより尖った空気が漂う。


………仕事で、トラブルでもあったのかな………。


何も知らないあたしは、膝をきゅっと自分の方に寄せて、小さく足の指先を動かしていると


「ただいま」


と、隣から穏やかな声で何時もの挨拶が飛んできた。


膝に顔を埋めたまま「おかえり」とだけ返事をする。リョウは、何も言わない。


………違う、きっとあたしが自分の口で言うのを待ってる。


紫煙が届く。リョウが吐いた息があたしの肺に入る。吸い込むと、胸の奥がぶるぶるとちいさく震えた。


顔を見る事も出来ずに足の親指だけを動かし息を整えた。



「……あの、ね」


「あぁ」


「……リョウ、彼女居るの?」



言うだけ言って、そろりと隣を覗く。


リョウは半分以上残っているタバコを灰皿に押し当て、薄い煙を吐き出した。



「……いたらお前を拾ったりしてねぇよ」


「…………そう」


「そうだよ」


「……そっか」



…………そっか。


自分に言い聞かせるように頷くと、リョウはあたしの頭に手を置きいつもの様に髪を掻き乱した。


毎日飽きずにされるこのわしゃわしゃタイムは憂さ晴らしの一環かな?



でも、あたしもどうかしてる。


リョウに頭を撫でられると〝普通〟に、なれる気がする。

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