第68話

浴室のおおきな鏡の前に下ろされると、背後に居るリョウは乱れた衣服を掴んであたしの肌を露わにした。


その鏡の中にはあたしと、リョウの姿だけが映る。



「……どこが汚い?」


言われて、頬をなぞられて、鏡の中の自分と目が合う。


みすぼらしい姿。顔にはまだうっすらと痣が残っている。腕も同じ、隠さないと見えてしまう。



でも、リョウの指先がなぞる部分は白い肌が見えるだけで、あんなにあった痣はひとつもない。


胸元や首筋、お腹周りに咲いていた赤い花びらも消えている。



「……綺麗だよ」



ただ、そこにはあたしの肌があるだけで、それだけで涙が頬を伝った。


呆然と泣くあたしを、リョウは優しく抱き寄せた。


やっと、甘いムスクの香りがした。今日一日、ずっとあたしを包んでいた香りだ。



いつの間に、リョウだと気付くようになった香りだ。

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