第5話



錆び付いた鉄骨階段が鳴らすのは、天国へのカウントダウン。


だけどその耳障りの悪さと言ったら、身体を動かすのも億劫になる程だった。


ただ只管肩を揺らし、無我夢中で足を動かした。


リズミカルな呼吸とともに白い息が逃げていく。



漸く辿り着いた雑居ビルの屋上。ひとりきりのあたしに降り注ぐ月の光。その達成感からドサリとその場に倒れ込んだ。脈打つ鼓動を落ち着かせるように、荒れた息を整える。


風が吹く度に粉雪が舞い、あたしの肌に触れると一瞬で溶ける。



珍しい…確か、忘れ雪…だったかな。


幼い頃祖母から聞いた言葉が、何となく脳裏に過る。



春の兆しが見える時期だって言うのに、肌を突き刺す程冷たいビル風は容赦なく吹き荒れる。だけど、コンクリートの冷たさはどこか心地良い。


気の向くままに、目を瞑った。

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