法廷ジャスティス三姫伝説(整形外科医南埜正五郎追悼作品)

南埜純一

第1話 S市教育委員会への出訴の経緯

整形外科医だった長男・南埜正五郎のパワハラに基づく労災申請や審査庁の棄却裁決、それに対する取消訴訟や民事訴訟は時間がかかることもあって、ウォーミングアップも兼ね、63年前に筆者が受けたパワハラ(当時はそんな言葉もなく、またその認識も希薄であったが)について、裁判所の判断を仰ぐべく地裁に訴状を提出した。講座を担当していた大学の学生の皆さんがよく口にした【ダメ元(ダメでもともと)】。この感覚で裁判所に提出した訴状であって、弁護士を選任せずに本人訴訟を通したことが、審理判断してくれる裁判所には失礼であるが、私の【ダメ元】意識を語っていると言えなくもない提訴だった。


ところが法廷で弁論に臨んだ私は、何とも言い表しようのない―――さわやかな少女の印象をまとった、三人の女性が裁判官席に並ぶと、第一印象より形容が一層困難な、不思議な感覚に襲われてしまった。体は男性のように大きくはなくて、どちらかといえば小柄だが、法服がピタリと似合う、侵しがたいが、それでいて庶民的なやさしさに溢れる三人であったのだ。


私の知る女性裁判官と言えば、真っ先に頭に浮かぶのが親友の姉さんで、彼女も庶民的ではあっても、目の前にいる裁判官とは全く印象が違う人だった。親友の姉はOLをしながら司法試験に受かって裁判官になったのだが、肩に脂肪球が出来ても何ら頓着することなく、夏はノースリーブを通す人であった。「ショルダーバッグが引っ掛かって、落ちんとエエんやで」と、真面目な顔で語る人だったのだ。


少し本筋から離れるが、投稿魔というほどでは全くないが、思いついたことをたまにネットにアップする私のような人間は、隣人や友人としては好ましくない者とのレッテルを張られる傾向があるらしい。世にいう【物書きを隣人と友人に持つな】の諺めいた俗言が妥当する場面で、いつプライバシーが暴露されるか分からない危険の警告であろう。


ただ私にとって興味深い人たちには、迷惑の掛からない(私が思っているだけであるが)範囲で私の著作物には登場願っていて、今回のこの作品にも、将来への覚書も兼ねて、ご迷惑とは思うが、多くの興味深い人たちには登場してもらうことにした。そう、先の三人の女性裁判官には、何とも、私は興味を掻き立てられてしまったのだ。


さて、裁判官だった親友の姉さんに話を戻すと、親友と一緒に彼女の老人ホームを訪れた時の印象が忘れられない。億の半分という高額の入所料なのに、四畳半と六畳の二部屋しかないのに私が驚いて、「死ぬまでタダで看てもらえるから、この程度の部屋なんやね」と、勝手な解釈を伝えると、


「なに言うてんの。私なんか、月々結構なお金を出してんやから」と、食費と医療費等の必要経費の支出に、中堅サラリーマンの給与と同程度の支出金額を伝えられてしまった。中堅サラリーマンの給与のほぼ全てが、手元から消え去っていくのだ。エッ! と驚く私に、弁解の必要を感じたのであろう。


「この部屋から見える、二上山に沈む夕日が綺麗なんやで」と、親友の姉は六畳間の窓から、西に臨む万葉に馴染みの青葉の山を指さしたのだった。


「二上山に沈む夕日やったら、その辺の二千万円くらいの八階建てマンションの窓から見た方が、よっぽど綺麗ちゃうん」


「そやけど、ここに入ってたら、監視カメラで看てくれるから、部屋で倒れても安心なんやで」


「監視カメラって、トイレに入ってる時も見られてるんか?」私の素朴な疑問だった。


「トイレに入ってるときは、看られてへんわ」


「ほんなら、トイレで倒れたらどうすんねん」


「あんたはそんなこと言うてるから、こんなとこへは入られへんねん」親友の姉は呆れ顔だったが、私はそもそもたとえ金を貰っても監視カメラの保護下で暮らすのはマッピラ御免だった。


親友の姉についてこれ以上書くと、「姉のプライバシーを侵すな!」と、親友に怒られそうなのでこの辺りで置いておくが、いずれにしても法廷に臨み三人の女性裁判官から受けた印象は、親友の姉上から受けた印象とは全く違うもので、森で出会った妖精のようにチャーミングであったのだ。



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