第505話
「・・・待て。おまえ等先に行ってろ。」
『えっ!?』
奏は会社、私たちは保育園と大学に行こうと、皆が部屋を出た瞬間だった。
ふいに奏がそう言うと、皆の驚く声を玄関扉で遮った。
同時に、引かれた手。
バタン・・・
扉に遮られた静かな空間、未だに不満顔の奏が、私を抱き寄せる。
自然と、奏の腰に回された私の手。
私の耳元で、奏の不機嫌な声が聞こえた。
「最近あいつ等、お前にベッタリだな。」
低く唸る声は、私の鼓膜を揺らす。
くすぐったさに身を捩った私は、腰に回る自信の腕に力を込めた。
「家族だもの。一緒にいるのは当たり前でしょう?」
「チッ、ゆいかは俺だけのもんだ。」
奏は私の首筋に、唇を押しつけた。
「っっ、そ、ぅ。」
音を立てて離された首筋には、恐らく、華。
最後にそこに被せるようにして奏が甘噛みを落とした。
「っ、」
私の耐える声を聞いて奏の喉がクツリと鳴る。
「・・・甘いお前を、これからの人生を掌握できるのは、俺だけだ。」
奏の艶のある目が、至近距離で私を捕らえる。
「あいつ等が懐くのも、気に食わねえ。
あいつ等にお前が微笑むのも。
殺してしまいたいほどにな。」
奏の両手が私の首を締める様に包む。
奏の手首に手をかけて、私は奏を見上げた。
「っ、」
それだけで、獣の様に塞がれる唇。
奏は私の首に手をかけたまま、私の唇を【補食】する。
「・・・っ、もっと、」
キスの合間に、息の切れた私の言葉が漏れた。
「ん?」
目は獣の様なのに、口調は優しくて。
クスリと笑った私は奏に懇願する。
「もっと、私を求めて欲しい。
・・・そうしないと、不安で壊れてしまいそう。」
そう言った私の伏せた目を、奏は瞼にキスを落として再び上げさせる。
「上等だ。俺の狂愛に耐えてみせろ。」
奏のそんな言葉に、私は契約成立とばかりに軽いキスを落とした。
私は死ぬ前に、【賭】をした。
一度目は、負けちゃったけど。
「今度の【賭】は、私の勝ちね。」
微笑んだ私に、奏の深いキスが落ちた。
完
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