第492話

百合の間に着くと、いつもの場所に腰掛けた。



組員の整列する場所に腰掛けようとしている翠に視線を滑らせる。



「翠?君どこ座ってんの?今日はこっち。」



僕の背後を指さした。



「・・・そこは真琴様の席です。」



生真面目な翠に苦笑が漏れた。



「翠?今日は゛客でもない゛人間を迎えるんや。礼儀も作法もいらん。

それに真琴は今東やろ。

真琴の次に地位のある君が座るんに、なんの違和感もあらへんわ。」



「・・・承知致しました。」



完全に渋々な翠に、今度こそ本気で笑ってしまう。



「ふふ、これから修羅場になるのに、笑わせんといてや。」



「・・・龍綺様を笑わせた覚えはございませんが。」



訝しげな表情の翠を更に笑っていると、



「失礼いたします。」



案内の組員の声が聞こえた。



「ん、通し。」



僕の声で、襖が開く。



入ってきた2人を見て、扇子で口元を隠し、目を細めた。



僕の大切な弟の闇を消したる。



静かに、そして堂々とこちらへ歩を進めてくる男。



その男が近付くにつれ、背後の翠が怯えを見せる。



「申し訳ないが、その辺で座って貰えへんやろか?゛うち゛の翠が生理的に受け付けんみたいやから。

あ、勿論僕もやけどね?」



僕の笑いを含んだ声に、男の顔に苛立ちが浮かぶ。

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