第66話

教室に入れば、一瞬シン・・・と静まりかえった後、ザワザワと騒ぎ出す生徒たち。



『えっ!隼人さんじゃない?』



『うわぁ、本物!超かっこいい!』



『なんで普通科に?』



ざわつく教室に笑顔を張り付けて入り、ビックリしてキョロキョロしているおっさん(先生)に微笑んだ。




「授業中すみません。生徒を一人、お借りしたいんですが。

校長には許可をとってありますので。」



「へ?はっ、わ、分かりました。」



俺を凝視していたおっさん(先生)が我に返り、生徒に向き直る。



「お前らー!静かにしろー!・・・どうぞ。」



さすが普通科。先生の一声で静まるとは。



他のクラスだったら「殺すぞ!」って罵声が飛んで終わりだよね。



静まりかえった生徒に向き直り、おっさん(先生)の代わりに教卓に立つ。



廊下には色とりどりの不良たち。



それに苦笑し、目的の生徒を見つめながら口を開いた。




「香坂雅人君。」



「・・・ぇ?」



顔を強ばらせ、此方を見た青年。



香坂咲は、黒髪のボブに、可愛らしく垂れた目、丸みを帯びた鼻、ぷるんとした唇、身長は150ほどしかなく、こいつに比べれば年下に見えるだろう。



一方香坂雅人は父親に似て、大きな身体に鋭い目、精悍な顔立ち。


容姿だけでは普通科にいる事態信じられない。



どうやら父親に武道を叩き込まれ、強いらしいが、姉思いのせいか、族に関わる気は無いようだった。



やりたがらない奴を勧誘するほど蓮も暇じゃない。



香坂雅人は、名前を呼ばれるとは思わなかったらしく、若干放心状態。



クラスの生徒はそんな雅人の様子を静観している。



「・・・あの、俺、ですか?」



震える声で聞く雅人に、笑顔を深める。



「ええ。奏様がお呼びです。一緒に来ていただきたい。」




ザワッ・・・・




奏の名前が出た途端、顔が強ばる雅人、騒がしくなる教室。




「・・・それ、は。」



戸惑う彼の元へ歩を進め、耳元で囁く。




「・・・お姉さまも一緒に待ってらっしゃいますよ?」




俺の囁きに目を見開いて勢いよく顔を向けてきた雅人は、今まで被っていた温厚そうな仮面をはぎ取っていた。



(・・・いい面だ。)



鋭い視線を向ける雅人を顎で促し、ザワツく教室を後にする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る