第479話

あの狭いマンションで、人の情事を見ながら生活する程神経はおかしくない。



「どうせならホテル行けよ。」



自分の姉を心底軽蔑するように吐き捨てられた自分の言葉は、繁華街の喧騒にかき消される。



私は体を捧げるなら密人くんがいい。



あんな汚い組員になんか絶対にいや。



姉はもう、昔の姉じゃなかった。



今は薬を貰うためだけに、組の誰にも体を開く女。


ほぼ買春宿のようになった私とお姉ちゃんの家は、毎日の様に交代で組員の"憩いの場"となっていた。



勿論、そんな所に帰る訳もなく……



「廉司。」


「あー、瑠衣チャンまた来たの?」



廉司のクラブで、暇を潰すようになった。



「今日もお姉ちゃん喘いでるんだ?」



そう言って馴れ馴れしく私の肩を抱く廉司は、長い金髪の髪をかきあげた。



「・・・今日はショックなことがあってね。薬じゃなくて慰めてもらってるの。」



可哀想でしょ?


そう微笑む私に、廉司は黙ってカシスオレンジを私の前に置いた。



クラブ【フェアリー】



古めかしい様相に、ロックな音、妖精とは程遠いこの汚いクラブのオーナーである廉司と出会ったのは、護衛の組員に紹介されたから。



どうやら組の薬を捌いているらしくて、このクラブはよく取引に使われるんだとか。



勿論、そんな重要な秘密をタダで私なんかに教えるわけがない。



『ココ、女も"売ってる"から。』



バラせば私も売られるということ。



私が組員に関わろうとはしていないし、相手も手を出してこないから、お姉ちゃんという売り物を通しての知り合い程度。


だから一線を超えない限りはお互い干渉は無し、という意味だ。



だけどこの廉司は違った。



「大変だねぇ、阿婆擦れが姉だと。」


「ちょっと、一応私の姉よ?」


「ふふ、ごめんごめん。」


「ま、阿婆擦れは合ってるけどね。」



彼は、私に馴れ馴れしいけど、体を求めては来ない。



よくVIPで女を抱いてるけど。



「なんかねー、瑠衣チャンに手を出したら寂しい思いをしそう。」



普段は手を真っ黒に染めるこの男は、私の前では子供の様に笑う。



犯罪者の癖に、私にはその片鱗すら見せない。



そんな関係が心地よくて、私は毎晩ここに足を運んだ。

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