第59話
「さっさと本題に入れ。」
鬱陶しい。そう吐き捨てた俺に、不快さすら表情に出さない女は胸に手を置いて大きく息を吸った。
このマイペースさに、どんな態度を取られようが気にしない大らかさは、この女が持って生まれた性格なんだろう。
俺は基本、気が長い方じゃない。いつもゆっくりと言葉を待ってやるのは、ゆいかだからだ。
他の人間、ましてや女だったら、この場をすぐに去っている所だ。
しかし…
「恋に、落ちてしまいましたの。」
「・・・。」
この女が持っている”ネタ”は、
「貴方の従者のようですので、仲介していただけないかと思いまして。」
「・・・誰だ。」
待つだけの価値はありそうだ。
そう聞いた俺に、女は頬を染めて口を開いた。
「昴様、ですわ。」
「・・・。」
その名を聞いて、口角が上がった。
あの堅物と、恋愛トラブルが絶えないという惚れやすいこの女。
「正確には、俺の下じゃない。”上”に話を通してから連絡しよう。」
「あの方にお会いできるのでしたら、構いませんわ。」
いい”余興”になりそうだ。
俺に酒を注ごうとする女を制して、そのあとは女が一方的に昴のことを話しているのをただ聞いていた。
”上”である、ゆいかの許可がいるが。
あの忌々しいシスコン野郎をゆいかから引き離せるかもしれねえ。
杯を煽ってほくそ笑んだ。
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