第56話

side 海渡



雫様が返答をした時点で、我々の出番はなくなってしまった。



この方が自ら対応している相手の前に割って入ることは、雫様に失礼だからだ。



【テウス】とは、ギリシャ語で神を意味する。


三流どころか、四流の部類にさえ入れないあの雑誌は、我が神のゴシップばかりを取り上げ、面白おかしく書いている最低のものだ。



その中で、専属として動いている記者は把握しているだけでも2名しかいない。その2人の中でも主に記事を書いているのはこの男、神代裕也だった。



上品に雫様と言葉を交わしているが、この男の書いている記事は下種そのもの。


この神代が、雫様の主治医である桐生と雫様が不倫関係にあるという、全くの事実無根を、ご丁寧にも間違った写真付きでそれがまるで事実かのように書き連ねている張本人。




この出会いもきっと、仕組まれたものに違いなかった。雫様の買い物は決まった日に行われるわけではない。



今この場に駆け付けたのは我々を張り込んでいたからかもしれない。



最悪なことに、地平さんも蒼羽さんもおらず、何より玲様が不在のこの状況。



厳重な警備の中この期を狙うとは、この男、ただの記者と見ればバカを見るのはこちらになりそうだった。

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