第34話

《じゃっ!》


「おいっ!」



振り返って全力で投げた物は、ただのゴミ。


キラキラ光ればいいのに、夜のせいかそれはなく。ほんとにゴミみたいに、真っ黒な影は暗い海へと消えていった。音もしないってことは、すぐそこの海にきちんと落ちてくれた様子。


ワタシの投球能力、やるじゃん。



ふと、笑って……嗚呼。


《さよなら。》


あれを貰った時の芽依の喜び方はとても……



ワタシも、嬉しかった。



だけど結局あれも、ただのゴミ。


ワタシ達をだます、ただの道具だった。



少なくともワタシ達は、この男が好きだった。



ゆっくりと頬を涙が伝って。それを流させたのは、ワタシでもあり、芽依でもある。



「お前っ、」



篠田幸樹の責めるような声にハッと我に返って振り返れば、こいつは涙が目に入ったのか、驚いたように目を見開いた。



《プッ、さっきから驚きすぎ。》



そう言って篠田幸樹の横を通り過ぎ、ようとして。



「待て。お前誰だ?」



至極まともな問いかけとともに、腕に鈍い痛みを感じた。


質問には答えず、強く掴まれたそこをただ見ていれば、篠田幸樹はゆっくりと力を弱める。



「……わりぃ。」


なんに対しての謝罪なのか。もはや失笑も出ないけれど。



仮にも、好きだった男だ。



《みんなに気づかれないように裏から出る。今日は記念の日だから。》



最後くらいは、潔い女でいたい。

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