第53話

side 冬陽




恐くて仕方がなかった。身体は震え、さっきまで感じていた温もりとか光とか、そういう綺麗なものが全部奪われてしまったような感覚に陥った。




立っていることもできない。『このままあの写真がネットに上げられてしまったらどうしよう?』それしか考えられない。




恐い。写真が、スマホが、ネットが……私から一瞬で全てを奪う、最悪の存在。



歯が鳴るほどの恐怖。そしてみんなの好奇の目。



「はっ、は、」



息をする術すら忘れるほどの大きな不安は私を押しつぶそうと口角を上げる。


そんな時だった。



「てめぇ今なんつった?」


「あ?」



物凄く低い声が真上から聞こえて、私の肩を支えていた何かがなくなる。



それは、不安に夢中で感じることができなかった温もり。雀の大きな手だ。



「……冬陽が、ブス?」


「なっ、なんだよっ、この女が変なことすっからだろ?」




怯む男性に詰め寄る雀の表情は見えないけど、明らかに怒っていることは分かる。それも、尋常じゃない。そう感じるほどの大きな怒りだ。



「そのちっせえ目でよく見ろカス野郎。」


「ヒウッ、」



むにゅり。そう効果音が聞こえそうなほど乱暴に彼氏の両頬を掴んだ雀は、タコ口になってしまっている彼にくっつきそうなほど顔を近づけた。

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