第6話
「っっ、」
男の低い声は、暗闇から聞こえた。姿は見えないのに、その声はまるで耳元で囁かれたかのように鮮明に聞こえて、私の背筋を寒くさせる。
声のした方がどこかも分からずに、痛いほどに脈打つ胸を抑えてキョロキョロと視線を漂わせる。
「なぁ。」
「……え、」
やっぱり。姿は見えないのに、男の声ははっきりと聞こえて。得体が知れない怖さに震え上がった。
「誰っ!?」
あまりにも怖すぎて、ほんとチビリそう。最後の勇気を振り絞ってそう叫べば、ベンチのすぐそばの暗闇に、光が灯った。
それは、ライターの炎のようだった。シュボッという音を合図にオレンジ色の火が灯って、俯きがちの男の顔を温かく照らした。
「お前、名前は?」
突然そう言った男は、口にタバコを挟んだまま、私の元へ歩み寄った。近付いたおかげで男の顔がようやく街灯の光に照らされる。
「っっ、」
恐ろしく、整った顔。切れ長の目は鋭く射抜くように私を見ている。高い鼻に、整った眉。慣れたようにタバコを口にはさむ薄い唇からは、タバコの煙が少しだけ漏れていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます