第6話

「っっ、」




男の低い声は、暗闇から聞こえた。姿は見えないのに、その声はまるで耳元で囁かれたかのように鮮明に聞こえて、私の背筋を寒くさせる。




声のした方がどこかも分からずに、痛いほどに脈打つ胸を抑えてキョロキョロと視線を漂わせる。



「なぁ。」


「……え、」



やっぱり。姿は見えないのに、男の声ははっきりと聞こえて。得体が知れない怖さに震え上がった。



「誰っ!?」



あまりにも怖すぎて、ほんとチビリそう。最後の勇気を振り絞ってそう叫べば、ベンチのすぐそばの暗闇に、光が灯った。



それは、ライターの炎のようだった。シュボッという音を合図にオレンジ色の火が灯って、俯きがちの男の顔を温かく照らした。



「お前、名前は?」



突然そう言った男は、口にタバコを挟んだまま、私の元へ歩み寄った。近付いたおかげで男の顔がようやく街灯の光に照らされる。



「っっ、」



恐ろしく、整った顔。切れ長の目は鋭く射抜くように私を見ている。高い鼻に、整った眉。慣れたようにタバコを口にはさむ薄い唇からは、タバコの煙が少しだけ漏れていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る