狗の花嫁

第25話

side 雫



私に跪く彼は、とても素敵だった。



真っ白な髪には痛みなどなく、さらさらと音が鳴るように揺れている。室内なのに艶を見せるそれは、綺麗に、短く切りそろえられ、彼の洗礼された佇まいに合っていた。


目はキリッとしていて、所謂切れ長の目、というものなんだろう。黒や茶であるはずのそれは、黄みがかった黄金色。



薄い口元は緩く三日月を描き、彼の自信を表していた。


決定的だったのは、その全てを覆う雰囲気。



間違いなく、私に今、跪いているのは……



京極家現当主、京極玲様。その人だった。




「申しわけございませんが、その台詞は沖田家でお願いします。」



そう言ったのは、彼が連れている、従者の1人。



真っ黒な整えられた髪を後ろに流すように固めている彼は、髪の色に合った真っ黒なふちの眼鏡をかけていた。



そんな彼は、当主様と同じく、目が独特の色をしていた。



彼の目は真っ赤。ということは、当主様に代々仕えている、長谷川家の家の人間だということ。



それも彼は、長谷川家の長。その家の一番上の人間が、当主様に付くことになっているからだった。




「あそこに戻るのか?」



当主様の、心底嫌そうな声でハッと我に返った。

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