第19話

side 玲




俺が睨み下ろした先には、こちらの存在にも気付かない沖田雫がその真っ黒な目を愁いに染めていた。



思った通りの透き通るような白い肌、今すぐにでも吸い付きたくなるピンク色の唇。そして、少し茶色がかったそのさらさらの髪は、甘えるように犬の息遣いに揺れ動かされていた。



犬が人間ならば、恋人同士にも見えなくもない。それほどこの1人と1匹は折り重なるように密着していた。



気に入らないことばかりだと奥歯を噛んだ。


しかも、目の前の犬の落ち着きようが鼻につく。


俺たちは不法侵入でこの場にいるのに、目の前の犬は入ってきた俺たちを一瞬だけ、鋭い視線で見た後、雫を慈しむように視線を落とした。



まるで俺たちには興味がない、とでもいうように。



バカ犬な訳じゃない。一瞬でこの犬は、俺たちを”見定めた”んだ。


そして、身体の預け方からいって雫は、この犬に全幅の信頼を置いている。




「お前はなぜ、ここにいる?」



気がつけば、そう言っていた。雫を迎える時は優しい声でいようと決めていたのに、俺の口を突いて出たのはそんな、怒りを含んだ声。



「……え?」



俺と、後ろにいる地平を見てビビったのか、雫はそんな声を出して固まった。

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