陸・小説家の添い方

第1話

side 雀




「おかえり。」


「……ただいま。」



朝、全ての色が失せたその目が、家に帰った瞬間温かい光を灯す。



俺へ向けるホッとしたような笑みは嬉し気で。それだけで嬉しさが込み上げた。



それでもどこか、すっきりしないのは。



冬陽が確実に今、傷ついていることが分かるからだ。




「今日はどうだった?」


「別に。なにも。」




冬陽が学校に戻ってから、俺たちは会話こそはしていたものの、なんとなくすれ違いの日々が続いていた。



兄貴の助言もあり、今俺の心の内を冬陽に話してみることにした。


それで冬陽に言われたことでやっと気づいたのは、結局俺は単純に寂しかったんだという、馬鹿みたいな理由だ。



なのになぜがすっきりしたのは、マジで俺はそんなつまらねえ理由で悩んでいたという自覚があるからだ。




それから俺たちは、たくさん話をした。学校で起こった出来事、友達のこと、授業のこと。冬陽は多くを話してくれた。



学校の連中は、冬陽をあっさりと受け入れてくれたわけじゃない。それでも冬陽は冬陽なりに、学校生活に向き合い、未来を見つめていたんだと思う。




それなのに、今は。



「なにも、ないよ。」



冬陽は向き合うのを、やめてしまった。

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