第40話

「さっきの女は?」


「助けてもらっといて第一声がそれか。」



ほんと、琴葉といいこいつら、私をなんだと思ってるのか。



「さっきの、女は、」



私の言葉を聞く気のないらしい男は、語気を強め、もう一度問いかける。



「女って?」



ここで、意地悪で惚けてみる。ここで私にどういう感情が働いてそう言ったのかは分からないけど。


言われた男は一切表情は変えず。そして月を振り返った。



「制服で、黒髪だった。三白眼が印象的で。」



そこまで言うと男は、再び私を振り返る。その表情はどこか寂しそうで、今にも泣きだしそうだと思った。



「さっきの女は?」



再びそう聞いてくる男は、切れ長の目を宙へ向ける。とろんとしたその目は、何かを探すように右へ左へと移ろう。




「会いたい。」



それだけを呟いた男は、ゆっくりと目を閉じてくず折れた。



「……なに、これ。」



私の口から出たのは失笑の混じる呆れ。



お互い名前も知らない。それなのに2人して、なんなの?



「まるでもう、恋人同士みたいに。」



それが恋って奴なんだろうか。いや、少なくとも私の知ってる恋は、こんなにも甘く、綺麗なものじゃない。

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