第42話

すると突然、体が宙に浮いたような、そんな感覚を覚えた時には、私は火炉ごと寝床に体を預けていた。



「はぁ。」




火炉が疲れた様子で目を閉じる。その眉間の皺を見ていると、不機嫌というよりこれは、疲れているんじゃないかと思う。



「あの、火炉?」


「……。」



名前を呼んでも、火炉は返事をしてくれない。寝ているんだろうか?そう思ったけれど……。




「腹が、減ったな。」


「え?」



そう呟いた火炉は唐突に起き上がって、親指と人差し指の腹を擦り合わせた。



「お呼びでしょうか。」



即座に暗闇から現れたのは、桜土と呼ばれている鬼。この鬼は苦手。私を見る度に、軽蔑するような、嫌そうな表情を一瞬だけ見せるから。



「食事をする。」


「は。」



火炉は、ここに来てから私を一人にすることがあまりない。だけど火炉が"食事をする"と言った時だけ、私は一人になる。



火炉は絶対に、別室に移動して一人で食事をする。私は私できちんと食事の時間があって、それを火炉はジッと見つめているだけ。私たちは一緒に食事をしたことはなかった。



火炉が、無造作に立ち上がる。待っていろとも言わず、私を振り返ることすらなく歩いていく。



その度に、私を見る桜土の表情が歪む。



毎度ぶつけられる嘲笑は、自分の立場を否応にも自覚させられ、みじめにさせてくれた。

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