第34話

side 和子




火炉は私を抱いて、別の浴室へやってきた。


ここは私が湯浴みをしていた部屋とは違い、装飾も少し大人しめで侍女もいない。火も点いていないせいか部屋全体は暗闇そのもので、廊下から漏れ入る灯りで辛うじて見える程度だった。




「ふ、」



火炉が小さく溜息を吐いた。それは小さな炎となって火炉の口から離れていく。


ゆらゆらと、ゆっくり、青い炎が空中を歩く。



そしてそれは突然いくつもに分裂して、部屋のあちこちへと四散する。



「わ。」



幻想的な光があちこちで輝いて、燭台に炎が灯る。



私たちがいた湯浴み場とは違って、火炉の口から出た炎は青色。それは壁や浴槽に反射してとても綺麗だった。



「……灯りをともしただけでそこまで喜ぶとは。」



クスリと火炉が笑ったことで、自分を見られていることに気付いた。慌てて目を伏せてももう後の祭り。



「そんなに隠さずとも、もうバレている。」


「……。」



そうだとしても、長年の経験で植え付けられた癖には逆らえず、私は自分の目を見られないようにグッと目を閉じるだけ。




「良い色をしている。」


「……ぇ?」



思わず見上げれば、火炉が笑っていた。



不敵な笑みでも、怖い笑みでも、楽し気な笑みでもなく、これまで人間を含め、見たことがないほど、優しい笑顔。

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