第32話

「俺は、認めない。」



それでも俺は、ただの人間ごときがあの方の愛を受けるなど、あってはならないと思っている。



「厳しいねぇ。さすが人間嫌いの桜土様。」


「あれは、ただの食糧だ。」



嫌いというわけじゃない。しかし家畜と我が鬼族を統べるあの方が恋愛など、あってはならないことだ。



侍女の死体を放った雷知は、手に付いた血を舐めてニヤリと笑った。



「家畜を舐めていると痛い目に遭うよ。この子のようにね。」


「それはどういう意味だ。」



俺の質問に、雷知は笑みを深めるだけ。もう興味がないとばかりに、ゆっくりと歩き出す。



「っっ、おいっ、」



腕を掴もうとしたところで、この男があっさりと捕まるはずもなく。空を切った手を握り締め奥歯を噛んだ。



もう俺に背を向け、闇に消えようとする雷知は、思い立ったとばかりに振り返って、人差し指を口の前で立てた。




「人間の愛情は、時に奇跡を起こすよ。特に女性は、鬼の子を産むことだってできるかもしれない。」


「はっ、なにを、」




言ったところで目を見開いた。なんとなく、俺の頭をよぎったこと。酷く不愉快で、あり得るはずもない想像だ。

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