第9話

頭痛がする。体中痛い。だからなのか、だんだん眠気が増していく。



暗闇が、ううん、鬼が何匹いるのか。それを確認するのすらも面倒なほど。だけど、これだけは……。



「火炉。」


「「「っっ、」」」



鬼が何人いようと関係ない。どうせ私は、食べられてしまう。



「なんだ。」



それなら、この鬼が、鬼のカシラだとしても、私は。



「私、は、コレ、じゃない。」



自分は自分のまま、死にたいの。



「……こ。」


「ん?」



薄れていく意識。聞き返してくる火炉の顔はなんだか、笑っているような気がして。




和子わこ。」



なんだか、人間臭いと思った。



ついに目を開けていられなくなった。でもそれだけで、痛みが和らいだ気がする。


そして、恐怖心は、眠気とともに四散した。




「……和子。良き名だ。」




どこか、微睡みの中で聞こえた優しい声。それは誰の声だったのか。



少なくとも私の名前を、こんなにも優しく呼んでくれた人なんて、この世に誰一人いなかった。




和子。忌み嫌われた私は、人間に疎まれ、鬼に食らわれる。



もし生まれてきたことが間違いだったのだとしたら、これはきっと私の人生の正しい終わり方なのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る