第6話

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「っっ、」



暗闇の中、目を覚ませば。体を激痛が襲う。あまりの痛みに悲鳴すら上げれず、痛みが治まるのをジッと待った。



それでも、痛みは一向に引くことはなく、息をすることすら辛い。



「……気が付いたか?」



暗闇の中から、声がした。



「人間とは不思議なものだ。勝手に生贄という存在を作り出したというのに、その”習慣”を自ら放棄しようとしている。」



目だけを動かしても、その声の主はいない。だけど、暗闇に溶けるソレが何かを、私は知っていた。




「しかし、噂は本当だ。俺は女を抱きながら食らうのを好む。」



穏やかに紡がれる言葉は酷く残酷で、私の恐怖心をあおり続ける。



痛みから、恐怖から、体が震え続けるのを止める術がない。それに、逃げるとして。明らかな重症の私は、立つことすらままならないだろう。




「さて、お前は美味であるかな?」



そう言って笑ったこの人は、人ならざる者。



「……火炉かろ。」


「っっ、」



目を剥いた彼は、美しい顔を歪めて笑う。



「今年の贄は、どうやら当たりらしい。」



額から生える大きな二本角。真っ赤な瞳。そして、人を生きたまま食らえるほどの尖った歯。

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