第33話

「関口くん。」




MAMEに呼ばれたかと思った。相変わらずドキリとさせる声だ。そう思いながら振り返れば、そこには予想した通り、河合ゆずが立っていた。



「なに?」


「あの。」



なんだか言いにくそうな感じだ。それにしても、困ったようなしぐさも可愛いよな。廊下ですれ違う生徒たちがみんな彼女を見ているのが分かる。




正直早くしてほしいんだよな。授業の合間の10分休憩たぶん残り4分もないだろう。授業の前にトイレに行きたいんだ。早くしないと授業時間いっぱい尿意に悩まされることになる。




どうせ先生になんか頼まれたとかだろ。頼み事だけでこんな言い淀まなくても。でも待てよ?ほぼ知らないクラスメイトじゃ困りもするかも。



……キモイとか思われてないだろうな?




「あの、話したいことが、あって。」


「え?」




唇に指を添えて、恥ずかしそうに河合ゆずはそう言った。



おいおいおいおい、まさか、そうじゃ、ない、よな?




「話?」


「うん。ここじゃ、ちょっと。」



頭の中に浮かぶ可能性は、あり得ないもので。だからすぐに打ち消した。




「放課後、時間いいかな?」




だけど俺の顔色を伺うその上目遣いに、期待している自分もいた。

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