第64話

「自分では分からないかもしれないが、今私たちの姿は見えない。」


「えっ、本当に?」



目を丸くする小町は、偽小町を見た。相変わらずの笑みのまま、偽小町は小さく頷く。それを見て目を見開いた小町は、近くにある鏡の前へと走っていく。



「……ほんとだ。」




鏡の前には、何もいない。それが何を意味するのか、分かっていても理解できなかった。



「魔法みたい。」


「ふふん。我が神であるからこその奇跡よ。」




この世界にも、小町が前にいた世界にも、魔法は存在しない。魔物自体は存在するにも関わらず、この世界で魔法が使えるのは絶対神であるミルだけであった。



その事実を知っているのはもちろん、ミルだけである。この世界の万物すべてを創造したミルは、なんでも知っているのだ。




「まぁいいわ。で、移動はどうするわけ?」


「軽くないか?」





切り替えの早い小町に呆れるミルは、今度は指を鳴らす。



「わ、わわわ!」



ふわりと浮いた自分の身体に、小町は嬉しそうに笑った。



「もしかして飛んでいくの?やった!」


「だから、順応力!」




もはや自分が何をやろうと、小町は何も驚かないのではないか。ミルはそんな気さえしていた。



しかしいちいち反応していてもバカバカしい。小町の順応力を見習うことにしたミルは、ため息を吐いて指を鳴らす。

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