第51話

扇子越しに微笑むシュガーを見て、小町の背後に控えるミルは目を細めた。



シュガーは、ただの悪役ではない。自分の運命に抗い、小町の運命を蹴落とし、自分の違う未来を掴んだ女。



頭も良く、実行するだけの力もあり、行動する勇気もある。自分が小町に心酔していなければ、この尋常ならざる生き物を、ミルは好きになっていたかもしれない。



しかし、ミルの目には、目の前の美しい女はただの敵にしか見えない。その視線に宿るものを感じ取ったのか、ただの侍女であり、本来なら意識するはずのないミルの存在を彼女に認識させた。



自分へ向けられる視線をシュガーは一瞬訝しんだが、それは少々の驚きへと変化する。




『見ていろ。お前なぞうちの小町に敵うはずもない。』



そう頭の中で宣言したミルは、この場の誰もが気付くこともなく、霧のように存在を四散させた。瞬間、この場の誰もがそれを見ていないことになり、驚いていた様子のシュガーも、何事もなかったかのように視線を小町へと戻す。




近くの木の上、後ろ手を組んだまま優雅なお茶会を見つめる神の目は、先ほどよりも濁って見える。



それを、チラリと見るだけに留めた少女の黒い瞳は、二度の人生、そして、三度目の人生すら達観して見ていた。

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