第51話

「…なに?」



食堂を出て、廊下を歩く私たち。私のじっとりとした視線にあえて気づかないふりをしているのか、律は笑顔のまま見つめ返してくる。この人のことだからそんなことはありえないけど。



「どこの王子さまかと思ったよ。」


「ときめいた?」


「うーん。」



本気で考え出した私に、律は苦笑い。



「僕なんか男として見れないか。」


「うーん、そういうのとはちょっと違うかな。」


「ほんと?」



さっきまで一花たちに喧嘩売ってた上いつも私をからかって遊んでばかりいる律が。”こういう”話題になると、とても危うく揺れる。


今もほら、すがるような視線で聞いてくるから。



だから私は、自分が思うまま答える。こういうのは取り繕ったところですぐにバレちゃうもんなんだから。



「ヒーローみたいでかっこよかったけど、ときめかなかった!」


笑顔でそう言ったら、しばらく固まっていた律は安堵したようにため息を吐いた。

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