第10話

「どうした?」



先ほどとは打って変わって、なるべく優しく問いかけた。


その声色が功を奏したのか、一花は少し表情を緩めて小さな安堵のため息をこぼす。だけどすぐに、気まずそうに目を泳がせて、おずおずと口を開いた。




「いや、怒ってるかなって、思って。」


「…なんで?」


「ヒッ。」




思わず低い声が出れば、一花はまるでなにか怖いものを見たかのような短い悲鳴を挙げる。そしてとっさに口を手で覆い、ごまかすように笑ってみせた。



この一連の流れ、今がはじめてじゃない。



「へへ、ごめんね?驚いちゃったの。」


「…うん。」



媚びるような笑みに今さらなにも感じなくてそう言えば、一花は何事もなかったかのように小さく深呼吸をして、口を開いた。




「ごめんね、嫌だよね、私が一緒に住む、なんて。」



苦笑いのその台詞を肯定すればどうなるのか、私は知っている。

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