第37話

しかし、だからこそあのパーティーが開催され、俺は水無瀬七緒に出会えたから、感謝しなくちゃいけない。



ケーキを買いに行ったあの日、彼女は普通に俺を客として見ていた。



これまで付き合ってきた女。関係のない日常生活で出会う女でさえも、まずは俺の存在に魅入られ、媚びるような仕草を見せるというのに。



なのに水無瀬七緒は、たまに頬を染めたりはするものの、リアクション自体が普通、というか。



おそらく、あの場にいたのが俺以外の少々見た目の良い男になら見せるだろう、男慣れしていない女の、純粋な、恥じらい?



敦斗のせいで少々古い言い方になったが、彼女、水無瀬七緒は、俺という特別な存在をまったく意識していないように見えた。



これが、付き合った瞬間今までの女たちのように豹変してしまえば、俺はもはやなにも言えないが。


なぜだか確信できるが、彼女は違うと思う。



いつもと違う気がする、なんて、テンプレな言い方だが…。彼女に感じるこの気持ちに、嘘はない。




『失礼致します。有栖美月様が面会を求めていますが、いかが致しますか?』



卓上の電話機から流れたそれに、敦斗と目を合わせた。互いに思っていることは同様だろう。だから、俺は答えない。それが分かっていたかのように敦斗が口を開いた。




「要件は?」


『…ただ、お会いしたいと。』


「なら断れ。」


『かしこまりました。』



プツリと切れた内線に、自然とため息が漏れた。

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