第12話

「ほえええ。」


「七緒。なにか口から出てるよ。」


「ううっ。」



ヨダレかと思って口を拭えば、真姫が呆れたようにため息を吐いた。


自覚はある。自覚はあるんだけど!


「美味しそう!」


「だよねー。私も毎年楽しみにしてるもん!」



私達は思わず、2人で抱きしめ合いながらテーブルの上を眺める。



艶々の霜降り肉は専属の人がせっせと用意をしているし、並んでいる料理もその辺の場末のブッフェとは大違いだ。



「…フライドポテトがない。」


「ぶふっ、そんなんあるわけない!」



よくあるウインナーを茹でただけ、ベーコンを焼いただけ、スクランブルエッグをぐちゃぐちゃにしただけのそれらもない。



デザートは宝石のようにキラキラ輝いているし、給仕の人たちの所作もどこか洗礼されていて、自分がいかに場違いかを教えてくれる。



「焼きそばもないね。」


「夏祭りか。」



真姫のツッコミを聞きながら彼女の手を引き、早速食べようと皿を探す。



「まだまだ。挨拶終わってからだよ!」


「はーい。ママー。」


「誰がママよ。」



そんなやり取りをしながら、給仕の人から受け取ったジュースを飲んでいる私たちは、気づいていなかった。



あちこちから様子を窺うように飛んできている、鋭い視線に。

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