第32話

「・・・・ぇ?」



自分でも声が震えているのが分かった。



私の不安を取り除くように奏が私の手を握ってくれたのに、安心を覚えた私は隼人さんに小さく頷いてみせる。



それを合図と受け取った隼人さんは、続いて口を開いた。




「なんかね、あの日のゆいかちゃんの行動であのバカたちもやっと気付いたらしいんだけど、調べがついたのは派手な格好をしたゆいかちゃんが強面に連れて行かれたのを最後に、消息を絶ってるってところまでみたいなんだよ。」



「・・・強面って・・・」



隣にいる奏をチラリと見ると眉間に皺が寄っている。



「んー・・・多分見られたのは奏じゃなくて鉄じゃないかな?」



「でしょうね?」



奏は見た目がかなり綺麗だから第三者に強面とは表現されない気がする。



すると今まで黙っていた奏が、



「それで?おまえはどうしたい?」



そう私に問う。



「私ですか?」



「今んところ見つかってねぇみてぇだから隠れ続けるのは造作もない。

お前を返してやるつもりはねぇが・・・会いたければ・・・会わせてやる。」



辛そうにしているくせに私の気持ちを優先してくれる奏に思わず笑顔になる。そんな私に奏は訝しげな顔を向けた。



「大丈夫ですよ。もう会いたいとも思いません。あの日私は全てを無くしたの。

あの人たちがまりかを選んだ時点でもう嫌悪感しか浮かばない。」



吐き捨てるように言った私の目には憎悪と深い哀しみ。



2人が息を飲んだのが分かった。



私の心はあの日の絶望に呑まこまれそうだった。



その時、柑橘系のさわやかな香りが香ってきたかと思うと、私は奏の大きな身体に包まれていた。




・・・また、救ってくれたの?



私はぎゅっと抱きしめ返した。

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