第58話

「貴女の言いたいことは分かります。しかしそれと彼女がキャロ…キャロライン嬢を叩いたのとは、問題が別では?」



カチュアの感情のこもっていない冷淡な声が響く。それは自分の態度を改めるつもりはないという宣言のようにも感じた。見れば、カチュアはヴァネッサをまっすぐに見ている。その顔には嘲笑すら浮かんでいて、カチュアへの殺意が一気に増幅した。



皇太子を見れば、彼はキャロラインの背中に手を当て、視線を外している。バツの悪そうな顔をしている辺り、この中ではマシな方であるのかもしれない。だけど、自分の側近が格上の公爵令嬢相手に不敬を働き続けているというのに止めないのは、自分も同じ意見であると知らしめているようなものだろう。



ラビットは塞がれた口への抵抗を諦め、ひたすらに私に縋るような視線を投げかけてくる。実際に婚約解消となり、彼なりに目が覚めた部分があるのかもしれない。



グレゴリーはというと、キャロラインの背後に移動し、相変わらずどうでも良さそうな顔。だけど位置的に、彼もどうやらキャロラインの味方であるらしい。



ラビットはまだしも、彼らの行動は、ヴァネッサよりもキャロラインを選んだ。そう捉えてもおかしくないほどのもの。それに私が気づいているのだから、ヴァネッサも気づいているのだろう。



見れば、彼女の顔には淑女の笑みが張り付いているが、顔色は悪い。彼女の背後にいる取り巻きたちも、今にも泣き出しそうな顔をしていた。



あ、これ、詰んだ。



そう思った瞬間、私の中の怒りが爆発した。



もはやツルツル頭の彼を殺されたツンツン頭の彼並みの怒りである。世代でない人、ごめんなさい。




しかし!最近生まれた人でも知っている御長寿アニメだもん!そう心の中で叫びながら、私は魔力を開放しようとした。

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