私はうつむかない
坂本餅太郎
さようなら
「これでよし、と」
私は今、自室で断捨離中だ。
断捨離と言っても、とりあえずは某フリマアプリに出品し終わったところなのだが。
最後に出品を完了したのは、揃いの結婚指輪だ。
可愛らしいデザインで、購入時には25万円ほどした。
出品に際して、様々な情報を打ち込まなければならないのだが、この作業が辛い。
結婚を約束し、式の予約までした後、結婚指輪を家に置いて出ていった彼のことを思い出さずにはいられない。
購入時につけたのと、自宅に戻ってからその日に一度つけただけで、ほぼ新品の品物である。なんなら、男性用に関しては購入時の確認でつけたあとは一度もつけていないと思う。
しかしながら、新品同然だからといって、購入価格と同等の値段で売れるということは無い。
無駄な出費になったことは悔やまれるが、世の中そう上手くはいかないのだ。
女性用は6号、男性用は15号と既にサイズは決まってしまっているし、結婚指輪だったこともあり、指輪の裏には個人的な刻印もある。
私が購入を検討するなら、絶対に定価でなんて買わない。なんなら、安くても買わない。地金での買取価格以下なら転売目的で買うかもしれないが、自分用に買うなんて馬鹿げているとしか思えない。
結婚を決め、式の直前に破局した人たちの結婚指輪なんて、もはや呪物だ。怨念とか籠ってそう。絶対呪われてる。
そんな呪物と言われそうなコレとも決別しなければならない。
買取店に持っていかず、自分で某フリマサイトに出品するのは、未練があるとかそういうことでは無いのだと思いたい。
こっちの方が高く売れるからなのだ。そう言い聞かせる。
そもそも、もう別れてから一年もたったのだ。これでまだ未練があって手放せないなんてことなら、そんな自分が嫌だ。
よし、考えるのはやめよう。結婚指輪のことを考えているとなんだか思考がマイナスに振切る。
彼と一緒に買ったものや、彼に貰ったものは全て売りさばき、私は新たな一歩を踏み出すのだ。
幸い、今は仕事も上手くいっており、生活は充実している。
家の中から彼の痕跡を消そうと決心できたほど、心は穏やか……穏やか? である。
ああ、この子達が売れたら、何を買おうか。
この前出た新作のウィトンのバッグがいいだろうか。いや、会社の近くにできたという、高級レストランに足を運ぶのも良いかもしれない。
28歳のOLは、結婚式直前に破局したからと言ってうつむいてはいられないのだ。
今後の生活を豊かにするために、私はここに誓おう。
私はうつむかない。前を見て、胸を張って生きていく。
私はうつむかない 坂本餅太郎 @mochitaro-s
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます