ワープ航法の先に

 レオンは宇宙旅を満喫していた。異星人と出会ったことはないが、さまざまな惑星を巡り、未知の環境や物質を調査しながら人類の未来に貢献しようと、日々努力している。彼にとって宇宙探索は、未知の世界を知る喜びそのものであり、技術者としての使命感もあった。新たな惑星を調査し、その資源を解析することが、地球の発展に寄与することになるからだ。



「ねぇ、ローラン。次はどの惑星に行こうか。近いところはどこだい?」



 レオンの問いに対し、しばらくの沈黙が流れた。ローランは計算をしているに違いない。彼の人工知能は非常に高性能だが、時にはこうして黙ってデータを集め、最適な選択をすることがある。レオンはそんなローランの癖を知っていたから、無駄に口を挟まずに待つことにしている。



「分析完了。ここから一番近いのはN539です。地球からの天体観測では、アルバニウムという物質があるという情報があります」



「アルバニウムか……」



 存在自体は知っている。研究によると、アルミニウムに近いものだと言われている。アルミニウムに似ているからアルバニウム。なんと安直なネーミングなんだろうか。命名者のセンスを疑いたくなる。名前はさておき、技術者としては実際に見て触れてみたい。



「じゃあ、N539に向かおうか。時間はどれくらいかかる? もちろん、ワープ航法が前提だけど」



「ワープ含めて小一時間です。あっという間です」



「オーケー。惑星までの運転はローランに任せるよ」



「かしこまりました。安心安全な航行を約束します」



 レオンはその答えに満足していた。ローランがミスをすることはありえない。しかし、万が一ミスをしたらどうなるか……。考えただけでもゾッとする。



「じゃあ、僕は寝るから、着いたら起こしてよ」



 簡単にそう言ってから、レオンはベッドに横たわり、目を閉じた。ローランの頼もしい声を背に、安心感とともに深い眠りに落ちていった。



 だが、その静かな時間は長くは続かなかった。



「レオン。緊急事態発生です。小さな隕石が接近中です」



 その声で目が覚める。レオンはすぐに反応したが、頭がまだぼんやりしている。目をこすりながら、ベッドから体を起こし、懸命に意識をはっきりさせた。



「避ければ済むでしょ?」



「スピードが速すぎて完全回避は不可能です。衝撃に備えてください」



 ローランの声が冷静だが、どこか緊張感が漂っている。レオンはすぐに、近くにあるポールに手をかけ、身を固定しようとする。しかし、衝撃があまりにも激しく、船内が激しく揺れた。彼の手がポールから外れ、無力なまま宙に浮く。体が振り回され、舌を噛まないよう必死に耐えるのが精一杯だった。



 宇宙船がようやく落ち着いた時、レオンはすぐにコクピットに向かう。



「ローラン、衝突による影響は?」



 聞くまでもなく分かっていた。宇宙船の端がへこんでいるのが、窓から見える。問題は宇宙航行に支障が出るかだ。



「申し上げにくいのですが……機体の一部が破損しました。そして、長距離航行は不可能になったと考えます」



 長距離航行が不能になる。それは、宇宙探索の旅の終わりを意味していた。



「それで、機体を直すには地球に戻るのがベストだよね?」



「もちろんです。地球にワープして、機体を直せば再び宇宙を旅行することが可能です」



 レオンはしばらく黙っていた。確かに、修理さえすればまた新たな冒険が待っている。しかし、旅の終わりを迎えるのは寂しいことだ。未知の惑星に訪れる楽しみがあったからこそ、ここまで来たのだ。



「地球までワープをお願い。ワープ燃料が少ないから、間違えて他の惑星に行くのはやめてよ」



「レオン、そんなミスはしません」



 レオンはローランに絶対の信頼を置いているが、先ほどの衝撃で壊れている可能性も十分ある。もしそうならば、レオンの死を意味している。



「どうか、無事に地球に辿り着きますように」



 レオンはそう呟いて目を閉じると、ローランのワープ航法に身を任せる。一瞬の揺れの後、視界に入ったのは――茶色く染まった惑星だった。

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