地球は茶色かった〜水陸逆転した世界での生存記録〜
雨宮 徹
常識が崩れ去った世界で
「ねえ、この星は本当に地球かい? 座標に間違いは――」
「間違いありません、レオン」
宇宙船に搭載されたAIローランが無機質な声で告げる。それも残酷な事実を。レオンは目をこすったり、ほっぺをつねったりしたが、どうも幻覚でも夢でもないらしい。
レオンの目の前に広がっていたのは、茶色く染まった地球の姿だった。過去に宇宙飛行士のガガーリンは「地球は青かった」という言葉を残している。地球の表面は7割が海だったから「水の惑星」だった。しかし、その姿は跡形もなく消え去っていた。
「じゃあ、これはどういうこと? なぜ、地球が茶色いの?」
「分析中……分析中……。分析結果が出ました。地球の水陸が逆転したようです。つまり、地球の大半を占めていた海が陸地になった、ということになります」
「……逆転?」レオンは目を大きく見開く。
「水陸が逆転? 悪い冗談はやめてよ」
「レオン、これは事実です。受け入れてください」
「そんなバカな」
水陸の逆転。そんなことがあり得るのだろうか。いや、そう簡単に起こることではない。ローランが狂ったのに違いない。経年劣化というやつだろう。このAIを作った会社は「正常に作動するのは10年」としている。長旅ですでに15年は経過している。そうだ、それなら辻褄があう。
「ローラン、君は壊れたんだ。そうだろう?」
「AIは自身が故障したかを評価はできません。それはレオンが自身が狂っていないことを証明できないのと同じです」
「……」レオンは黙り込む。確かに、そうだ。ローランも、レオンも、狂っているわけではないのだろう。ただ、信じられないだけだ。だが、これが現実である以上、受け入れるしかないのか?
「ローラン、目的は達成できそうかい? つまり、今の地球で壊れかけた宇宙船を直せる?」
「レオン、それは難しい質問ですね。この宇宙船は小惑星との衝突でダメージを受けています。現在の地球で必要な素材を集められるかは不明としか答えられません」
ある程度、予想していた答えだった。地球での修理が無理だと分かっていれば、ローランもワープを提案していなかっただろう。
なぜ水陸が逆転したか、生存者はいるのか、宇宙船を直せるのか。どれを考えるにもまずは地球に降り立たなければ、話は始まらない。
「どこか安全な場所を見つけて降下できるかい?」
「もちろんです。ただ地球に降り立っても、外に出るには宇宙服が必要かもしれません。大気の物質が変わっている可能性もあります。備え付けの宇宙服で十分であれば良いのですが」
「それは心配ないよ。自分で作ったものだから」
これだけは断言できる。技術者として、腕には自信がある。
「では、降下を開始します。揺れにご注意ください」
ローランの指示に従い、レオンは降下用のシートベルトを締めた。宇宙船が徐々に地球の大気圏に入ると、外の景色が急速に変わっていく。揺れと共に感じる重力の戻りに、久しぶりの感覚に胸が高鳴った。
「レオン、降下の準備が完了しました。安定した場所を見つけたので、着陸します」
「了解」
宇宙船が静かに降下を続ける中、レオンは窓から外の景色を見つめた。かつての海底が広がり、砂地が広がる荒廃した風景が目の前に現れた。目に映るのは見慣れない地球の姿だ。
着陸が完了すると、宇宙船のエアロックが開いた。宇宙服を身にまとい、慎重に外に一歩踏み出す。
「レオン、宇宙服に異常はありませんか」
レオンは手元にあるデバイスから聞こえるローランの声に安堵した。この荒廃した地球に生存者がいなければ、ローランは唯一の話し相手だ。レオンがすべきことは宇宙船の修理。そして、生存者の確認。もし、生存者がいなければ……それはその時考えよう。
「ローラン、大丈夫だ。どうやら、地球の空気は以前と構成は変わってないらしい。宇宙服もいらなさそうだ。さて、変わり果てた地球の探検をしようか」
「了解です、レオン」
「さて、探索を開始しますか」
レオンはかつての海だった地に一歩進み出る。もちろん、レオン以外の足跡はない。月面を初めて歩いたアームストロング船長の気分が分かった。未知の世界に初めて踏み出すことの楽しさと恐怖と不安の入り混じった気持ちが。
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