秋暮れの夕闇、貴方の革靴

@kz_sasara

履き替えと履き間違え

私と同じくらいの背のくせに先輩ぶる貴方が気に食わなかった


練習後に汗で濡れた黒髪の艶が綺麗なのが気に食わなかった


焦げつきそうな晴天だろうと土砂降りの雨天だろうと一度もサボらずに励むのが気に食わなかった


その癖私には「弱小校だから気を張るな」や「相手は私立の推薦生だった」とか語るのがさらに気に食わなかった


最後の大会に血の滲む努力をしたのに、結局予選敗退した時の諦めた表情が気に食わなかった


...

...

...


秋の夕暮れに照らされながら教室で自習してる姿と机の横に掛かってるランニングシューズが痛々しくて気に食わない


だから


「先輩、ひとっ走りどうです?」


驚いたような、困ったような、嬉しいような、悲しそうな、その複雑な表情が気に食わない


久しぶりに一緒のペースで走り、息の切れた貴方に合わせてペースを落とし、最後に気持ちよくジョグで一周回っただけで...だけで...


満足したふりをしようとした自分が、怖気付いた自分が


心の底から気に食わない


夕陽が地平線の端っこまで逃げていき、昏い青に空が塗り固められた


私は自憤して、怒りのままに両腿を叩いた


横に並ぶ貴方を追い越して、正面に向き合う


貴方の少し伸びた髪に気づく、相変わらずその艶やかな黒髪は嫌なほどに目を引いて、琥珀色のその瞳は煌びやかに輝く


「先輩、私と付き合ってくれませんか?あっ、もちろん受験の邪魔は「....ごめんな。」


気づけば空は真っ暗だった


さっきまで聞こえてた運動部達の声も途絶え、風に吹き散らかされる砂埃が目に入るよう


霞む視界とやたら熱い目頭が、静かな沈黙の中強く胸打つ鼓動が煩い


申し訳なさそうな笑顔だけ残して、革靴に履き替えていたその姿を目に私の青春は秋に枯れ落ちた

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