2人の部屋

奏〜カナエ〜

好奇心

 鍵を拾った。


 向かいのマンションの玄関前を通った時。持ち主に届けたほうがいいんだろうけどこのマンションのどの住人の鍵なのかわからない。 

(このマンションの管理人に預ければいいかな?)玄関前でうろうろして考え込んでいたらマンションのエレベーターが一階に止まった。ガラスの玄関越しにそれを確認した私は、とっさに自分のマンションの方向に逃げてしまった。歩きながらちらっと振り向き、出てきた住人を見た。イケメンだ...清潔感ある服装をして顔立ちも良い。THE・王道爽やかイケメン。彼氏なしの私は、あんな人と付き合いたいなぁと思いながら部屋に帰った。


 部屋に着いて鍵を見る。

「どうしよう。この鍵」少し考え、二つの選択肢に絞った。


1.元あった玄関前に置いて拾わなかったことにする。

2.管理人に渡す。


 当然、2の方が人として良い行いだと思うけれど、向かいのマンションの電話番号を探して電話して届けに行くとかめんどくさすぎる。何よりコミュ障の私には難易度が高い。模索しているうちにさっきのイケメンの顔がよぎる。

「あの子の部屋の鍵だったりしないかな?」ふとそう思ったとき、3つ目の選択肢を閃いた。



3.この鍵で部屋に入る。




 いや。ダメだろ。我ながら面白いことを思いつくなぁと少し笑って少し時間が経った。結局、2.管理人に渡す にした。誰かが困っているんだ、渡すべきだろう。

玄関前にマンション名や管理人の電話番号があると思い向かいのマンションに戻る。予想通り管理人の電話番号が書かれていた。

「仕方ない。話すの嫌だけど電話かけるか...」そう思いスマホを取り出したとき入口の横に暗証番号式で開けるパネルがあるのが目に入った。そしてそのパネルの下に鍵穴も付いている。その時さっきの考えが頭をよぎった 。この鍵があれば入れる。いや、ダメダメ!!と、思いつつ湧き上がる好奇心はいつの間にか鍵穴に挿していた。鍵をひねると、ウィィィィーン ガチャ、と、ロックは解除された。

「こんな簡単に入れちゃっていいの」そう言いながらマンションの中に入っていく。

 

 しかし結局どこの部屋の鍵かわからないままだ。玄関から出ようとした時、このどうしようもない頭はまた悪いことを閃いてしまう。




 「すべての部屋を開けてみればいいんじゃない」

こんなことを思いつく自分自身に少しの恐怖を抱きながらも、私の足はエレベーターのボタンを押していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

2人の部屋 奏〜カナエ〜 @mukiziro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る