初旅行

第19話

 ここのところ本当に調子がよかったし、何か異変を感じたらすぐに帰ってくるということを条件に外泊許可がもらえた。

「佑紀君ってたまに行動力鬼だよね」

「え?俺、優柔不断だけど」

ここにもギャップ発見。それに、ちょっと天然なところがまたいいんだな〜。

「お義父さんとお義母さん、先に向こうに着いてるんだよね」

さすがに2人きりで行くのは、目の届かないところもあるし心配だということで、なぜかお父さんとお母さんまでついてきている。

 佑紀君はこの旅行、楽しめるのかが1番心配なところだけど。

「そうだよ、あの2人の方が『旅行なんて久しぶりね〜』とか言ってワクワクしてた」

私は呆れて「はあ」と肩をすくめる。

「てか、この車相変わらず乗り心地いいねー!超安心する。助手席最高…!」

「それはよかった」

佑紀君の安全運転と、車の乗り心地に少しウトウトし始める。すると佑紀君は、後部座席からブランケットを取り出した。

「まだ旅館までは時間かかるし、寝てていいよ」

私は言われるままに膝にブランケットをかけ、目をつむった。車の機械音が以外にも気持ちよかった。


旅館は思っていたよりも大きくて、綺麗なところだった。

「あ!歩、佑紀君!こっちこっち~」

「佑紀君、運転お疲れ様。荷物持とうか」

お母さんもお父さんも、なんだかソワソワしているように見える。私と渚が大きくなったから、最近は本当に旅行に行ってなかった。2人も私達と一緒で、この日を楽しみにしていたんだろう。

「ありがとうございます」

佑紀君は途端にピシッと固くなる。結婚前の挨拶から結構経ったけど、未だに緊張はするみたいだ。

「ははっ、そんなにかしこまらなくていいよ。俺達はもう家族だろ?」

お父さんがそんな佑紀君の背中を容赦なくバシバシと叩く。ジムでのトレーニングを毎週欠かさずにしているお父さんは、今日も変わらずフレンドリーだ。髪もいつも通り短く切り揃えてある。

「さあ、早く部屋に行きましょ。私達はもう荷物置いちゃってるから」

私がご機嫌なお母さんに手を引かれて歩き出すと、後ろでは佑紀君が慌てたように声を上げた。

「あ、大丈夫です。僕持ちますよ!」

「あの距離を運転するのは大変だっただろ!いい、いい!俺が持ってやるって」

どちらも1歩も引かず、私のボストンバッグを取り合っている。

「…なんて面白い光景なの」

「私達は当たり前のように、お父さんに荷物持たせてたからね。あんな光景初めて見るよ」

私とお母さんはあの2人に対して、あくまでも他人事だった。

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