第17話

 左胸の切除手術を行った2ヶ月後、今度は右胸にしこりができた。

「―なんで…っ!」

何をしても逃げられない。ずっと後ろを付きまとってきて、私はそれから逃れることはできないんだ。治ると信じて頑張っていたあの頃の私。今となっては面影さえもなかった。


「佑紀君、やっぱりさ。その…結婚式諦めよう。今の私にはそんなの無理だよ」

無理やり作った笑顔は保つのが辛くて、顔の筋肉が小刻みに震える。でも、そんなのはすぐに見破られてしまった。

「無理して笑わなくていいよ。歩ちゃんが辛いだけだ。そんなこと、しなくてもいいよ」

いつものように、佑紀君は私を抱き締めて頭を優しく撫でる。温かい大きな手。安心できる鼓動の速さ。その全てに、私は涙が溢れそうになった。

「そうだ、智菜と帆貴には言ってくれた?」

ようやく決心がついた私は、智菜と帆貴にがんのことを打ち明けることにした。でも病院までわざわざきてもらうのは申し訳ないから、大学の方で佑紀君に言ってもらうことになっていた。

「うん。だからもうすぐくるはず―…」

その時、扉が3回ノックされた。

「あゆ?入るよ」

智菜の声だ。まだ幼い少女のような高めの声。聞き間違えるはずはない。

「どうぞ」

私が言うと、ゆっくりと扉が開いた。智菜の目には涙が溜まっている。帆貴は驚いたようにその場で固まった。

「あゆーっ!何でもっと早く言ってくれなかったの?ゆう君からは体調不良としか聞いてなかったんだよ!?」

「それに今、大学は休学してるって」

「私は2人とも体調不良って聞いて、詳しく知ろうとしなかったことの方が驚いたんですけど!」

冗談めかして笑うと、智菜は泣きながら私に抱きついてきた。

 ベルトの金具がお腹に当たって、少し痛い。

「何笑ってんの!バカぁ…!本当に心配したんだから…」

いつもニコニコ笑っている智菜が泣くところを、私は初めて見た。

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